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月夜の告白



お父様のために頑張ったら陛下に「優秀な魔法使いの血を王家に取り入れたいと思うのは当然であろう?」と言われて引き摺り出された公爵令嬢です。

本来なら問答無用で王太子妃に投げ込まれるところが、「嫁がせる相手はフィーネが決めるというところまでは妥協させた」とお父様相当頑張ったらしい。



「クラウス殿下が好きならば仕方ない。全力で政敵を潰そう。リオンハルト殿下が良いならば、近くの領地を取ってきてやろう。クリストファー殿下が良いのならばそれでも良い。全員嫌なら国を出るのも吝かではない。どうする」



お父様 怒って いらっしゃる !!

お母様も隣でにっこり笑っていらっしゃるところを見るととっても怒っていらっしゃる。



「フィーネが決められないなら私が決めてあげよっか」



楽しそうに言うベルに「とりあえずやめて」と返しておく。これ以上両親の怒りバロメーターを上げないように真剣に考えなくてはいけない。


少し考えさせてほしいと伝えると、お父様とお母様は顔を見合わせてから「病み上がりだものね」「すまなかったね」と頭を撫でてくれた。今日も両親が尊い。



「それにしても、ちょっといきなり過ぎではありませんの……」



そっと溜息を吐いた。

私よりも相応しい方なんていっぱい居るでしょうに。特に今はレティシアお姉様だって条件的にはそう変わらないはずだ。優秀さだけを見るのならば、私を引っ張り出すよりもレティシアお姉様を連れてきた方がよほど納得がいくのだけれど。


そんなことを考えていると、窓に何かが当たる音がした。なんだろう、と窓に近寄るとオレンジ色の少年の姿をした妖精が小石をぶつけていた。アークだわ、と窓を開けると、庭に軽く手を上げて左右に振るユウがいた。一階に行くにはさすがに人の目があるなぁ、と思っていると、緩やかに伸びた木に乗った彼が近づいてきた。



「目が覚めたって大騒ぎしてたから見に来てしまった」

「いえ、流石にこれって目立つのではありませんか……?」

「はは。流石に魔法の方には隠遁の魔法を重ねがけしているよ」

「そ、そうですか……」



そう言って笑う彼だけれど、多分これ通常の技量では無理だろうけどユウだからなぁ。

そう思いながら彼の方を向くと、「事件のせいで話ができなかったからな」なんて言われて約束を思い出す。



「時間を、との事でしたわね。少々難しい立場になってしまいましたのでお約束を守ることはできなくなってしまいましたけれど」



うん。だからちょっと距離を取らないとなんだけれど。正式に決まったわけではないとはいえ、王子妃にと言われてしまっている。



「……あぁ、聞いた。だからこそ、今しかなかった」



そう言って彼は膝をついて手を差し伸べる。



「二人で過ごしたあの一時(ひととき)よりずっと君を愛している。俺の妃になって欲しい。願わくばこのまま、攫われてくれないか」



月夜の晩、月明かりが優しく彼を照らす。

ユウらしい真っ直ぐなプロポーズに、少しときめいた…けれども、首を左右に振る。



「駄目か?」

「はい。わたくしではあなたの妃にはなれません」



ユウの国の制度的に私が嫁いだらまぁおそらく精神を病むと思う。そして、その中でユウを支えていけるほど私は意思が強くない。



「俺では君の思う人の代わりにはなれない?」



ああ、どこまで鋭いのかしら。

そう思いながら苦笑する。




「ええ。ユウはユウです。誰かの代わりにはなりませんわ」



咄嗟に浮かんだ姿を思い出して苦笑する。

選んだ私を愛してくれるとは限らないけれど。



「そうか」



彼はそう言って差し出した手を下げた。



「実は、魔族と呼ばれるものの出現で国に戻って来いと言われているんだ。これでもう心残りはない」



その黒髪が風で揺れる。切なげな表情で私を見るユウだけれど、その手を取らなかった私はここで別れるのが正解なのだろう。……少なくとも、彼が正妃を得るまで会うべきではないと思う。


だから、しっかりとその黒曜石のような瞳に視線を合わせる。



「さようなら」

「はい。また、いつか。ユート様」














「ああ、やっぱり心残りはないなんていえないな。振られてもやっぱり、君が愛しいよ」



家臣によって隠されていた馬車の中で優斗は呟いた。


幼い頃の初恋は、未だ彼の中で燻り続けている。自分の国の制度、そして彼女と過ごせなかった時間。それがやはり残念だったと思う。


国では手に入らないものなんてもう殆どないというのに、一番欲しいものは手に入らない。


あの少しの時間だけで一人の少女を想ってしまった自分はきっと愚かなのだろう、と月を見つめる。



「もっと良い女が国元にいるさ」

「理と情というのは別のものだよ、アーク」

「そりゃあ、そうだけどな」



唇を尖らせる自らの妖精の頬を突いた。


いつかは昇華されるかもしれない思いだけれど。

いつかは彼女の恋を祝福できるかもしれないけれど。


今は悔しいと、自分の方が彼女を好きだと思ってもいいだろうと彼はかつて、思い人から受け取ったブレスレット型のアミュレットに口付けた。

それは月に照らされて、柔く黄色に輝いた。

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