剣術大会
真っ白のローブを着て、髪が邪魔にならないよう後ろで三つ編みに束ねる。
鏡を見て微笑みを作ってみると、ぎこちない笑顔の私がいた。一度目を瞑ってもう一度笑みを作る。うん。これならまぁ及第点。
「お似合いですよ、フィーネお嬢様」
「ありがとう、ドロシー」
胸にお姉様に頂いたエメラルドのブローチをつけて、他の方々よりも早く会場へと向かう。内心は憂鬱だとしても、決してそれを出してはいけないものなのだろう。私はできているだろうか。
救護室へ向かうと、学校医の先生とリオン様がいた。なぜいるのかしらと思ったら顔に出ていたらしく、「私も一応はこの国有数の光魔法使いですよ。居てもおかしくはないでしょう?」と微笑んだ。なんか裏がありそうな微笑みである。
「そうですわね、心強いですわ」
手を叩いて微笑む。
内心は少しだけ複雑だ。
何せ、陛下はソフィア様が悲しまれるのがお嫌でリオン様を引っ込めて置くために私を無理やり引き摺り出したようなものである。リオン様が出てくるのであれば私は早い話、そこまで必要ではなかったりもする。治癒では確かに私が優秀だけれど、リオン様は結界術で右に出るものがいないのだ。最悪、怪我する前に指先一つで対戦者たちを確保できたりする。
親の心、子知らずというものかもしれない。お父様が苦々し気な顔をするはずである。
白いローブは輝くような金色の髪のリオン様に良く似合う。王子様が物語からそのまま出てきたようだ。
剣を携えているのは珍しい。そういえば、リオン様は実は剣術だけであれば結構強いのだとヒューお兄様が言っていたことを思い出した。「まぁ、俺の方が強いけど」なんてさらっと言ってしまうあたりが死亡フラグすら圧し折る愛情深いヒューお兄様らしいといえる。
救護室から出る時間になると、ベルが嬉しそうに私に突撃してきた。
何なのかな、と彼女を見れば一輪の花を抱えている。それを嬉しそうに私の髪に挿して、きゃっきゃと喜んだ。それで少し緊張が解れた気がする。
「参りましょうか、リオンハルト殿下」
「はい、フィーネ嬢」
フードを深く被り、二人で階段を登って、宣誓をする場に立った。
中央には陛下がいて、呆れたようにリオン様を見た。
「今日、この良き日に未来の国を守る若者たちの剣技を見れること、嬉しく思う」
全く嬉しくなさそうである。
なんなら興味すらなさそうだ。
隣にいるリオン様を盗み見ると、なんだか黒いオーラを発して微笑んでいらっしゃった。
「仕事だけは出来るのですから、真面目にやればよろしいのに」
小声で発せられたそれは苦々しく響いた。
お父様も「陛下は仕事だけは出来る」と言っていたところを見るに、陛下は大層厄介な人のようだ。
それでいて、優秀な人材を見抜く目はあると言われてもいる。
「諸君等の健闘に期待する」
マントを翻して、王族席へと戻っていく陛下と、何故か一瞬目があった気がした。