納得がいかない
納得がいかないわ、と頬を膨らませかけて止める。淑女として相応しい行動ではないものね。
平民の女の子ならそれが許されたのかしら。それとも、もっと爵位が低ければ?そう少しだけ考えたけれど、そんなこと考えたって仕方がない。
そもそも、私ってば公爵令嬢でなければこの年齢まで生きていなかったと思うし。
私の前世のように平民が自由に楽しく生きていけるほど優しくなければ、爵位が低かったらあのヤバそうな釣書の人たちに買い取られていただろうなってことは想像がつく。
平穏が少しでもあるのは、私がグレイヴ家の令嬢だからだ。
何はともあれ、私の悪役っぷりがガチ過ぎて全編棒読みの指示なんて普通に腹立たしい。私だってやればできるんだから、と張り切ったら裏目に出ちゃった。悲しい。
すっかりやる気の萎れた私は、出番まで不貞腐れながら水晶で作ったビーズをテグスで編み込んでいく。演技の確認とか棒読みしろって言われた以上やることないのである。だって他はクラスメイトがやってくれるので。
ふわふわした悪役っぽくない子供っぽいピンク色のドレスに縦巻きロールにした髪。いいとこ、ちょっとわがままなお嬢さんくらいにしか見えない。むしろ、これで年齢を当てられたら拍手すらしてしまう。
「可愛いフィーネ様の手から、妖精の贈り物のようなアクセサリーが生まれる様子はなんだか神秘的ですわね」
「あら、ありがとう。やることがないので暇つぶしですわ」
クリス様に言われて、出来上がったもののテグスをドロシーが差し出してきた道具でパチンと切る。
手を翳して魔力を注ぐと、金色の光が水晶や中心の宝石に吸い込まれていく。均等に注ぎ終えると、飾り紐という名のアミュレットの完成である。
「暇つぶし、という出来ではないような……」
「大したことはなくってよ。わたくしにはこれくらいしかできることはありませんしね」
ビーズや宝石の数と注がれた魔力の分、身の危険に結界の魔法が発動するだけのものだ。
妖精石は持っていれば確かに光の魔法が使えるけれど、急な攻撃には向かない。
その点、このアミュレットはこの花のような形自体が魔法陣の役割を示していて、攻撃に反応して効果を示す。
家族や周りの護衛の人とかに渡している。基本的に思いの強さと注ぐことができる魔力量に比例して強い結界になる。
レオお兄様が実験のためとか言って刺繍を極め出した時は、レオお兄様の弟で現在文官をやっておられるガウェインお兄様が「兄上!!これ以上の奇行はやめてください!!!」と言って一切合切を没収していった。なお、学院に入って研究室に入ってからのレオお兄様は流石に監視ができないらしく胃をたまに押さえている。
私が作ったものほど効果が出なかった、と残念そうにしていたから結局何かしら作ったのかもしれないけれど。
「フィーネ様、出番ですわっ!」
気合十分の継母役のクラスメイトに声をかけられて、差し出された扇子を手に取る。
クリス様も位置についていた。
立ち上がるとドレスがふわりと広がった。
「お嬢様、ご武運を」
「ふふ、戦ではないのだから」
心配そうするバベルに苦笑して、私も一歩踏み出した。
なお、その後それはクリスの手に渡った。