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従兄弟が家にやってきた



「お嬢様、姿勢が悪いですよ。」

「お嬢様、大きな口を開けてものを食べないように。」

「お嬢様、スペルが間違っております。」


結論を言うと、バベルはめちゃくちゃ有能だった。まず、知識の吸収が早い。次に、剣を持たせればそれなりに戦えるようになった。さらに、マナー関連や執事の仕事もサクッと覚えてしまった。どういうことだ。これがチートというやつなの?一月で私より出来るようになるってどういうこと?


「お嬢様が覚えが悪いだけでは?」


少し、いや、だいぶショックだった。


「フィンがバカだというわけではないと思うけどな。」

「アルお兄様……。」

「ただ、優秀というわけでもない。」

「アルお兄様……。」


アルお兄様にすら上げて下げられてしまった。そもそもこの兄もとても優秀だったことを思い出して、つくづく優秀なやつは凡人の気持ちなどわからないのだなと思った。家庭教師みんな上の子たちが優秀だったので、そちらに合わせようとする。私だけが凡人だった。悲しみ。


「確かに勉強についていけていない部分も多く、バベルの方が頭が良いなぁと感じますし、家庭教師にはため息を吐かれますけど、お友だちに聞いたところではうちの教育方針が難しいだけでしたのよ?」

「よそはよそ、うちはうち。」


アルお兄様は非情だった。公爵家に生まれた以上は頑張らなければいけないことだけれど、劣等感で死にそうになるので、もう少し私に合わせてレベルを落として欲しい。もう少し噛み砕いて教えていただければ多分マシになる。

そんなことを思いながら必死に日々を過ごしていると、従兄が家に来るというイベントが発生した。私はお部屋からそんなに出られないけれど。家庭教師から出された課題が終わらないのでした。


「お嬢様、また同じところを間違えておられます。」

「待って……ここ?」

「そちらは合っていますよ。」


執事にまで溜め息を吐かれる。キツい。

本日何度目かの逃げたい衝動に駆られて、思い切って図書室まで逃げてやった。意味がわからないことを何度も何度も繰り返すのは必要だとはわかっていても気が重いし、正直ちょっと飽きた。多少怒られた方がまだマシかもしれない。できないとわかればレベルを落とさざるを得ない。


「おや、今日は夜まで会えないと思っていたけれど課題は終わったのかな?」


隠れてやろうと良い感じの場所を物色していると、声をかけられ、体が宙に浮く。

ゆっくり後ろを振り向くと、灰色の長い髪を緩く結んだ青い瞳の美少年がそこにいた。この世には美少年しかいないのか?


「逃げました。」

「え?」

「こんなよくわからないものやってられないと思って逃げました。」


嘘なんて言うだけ無駄なのでむすっとしながらそう白状すると、何が面白いのか彼は私を抱き上げたまま噎せるまで笑った。あんまりだ。


「リリィとアルの妹が言うことじゃないな、ふ……っ。」

「笑い止まってないじゃないですか。」

「っく……、だって優秀で面白みがない公爵家の兄弟の妹に勉強から逃げました、なんて言われたら、ねぇ?」

「ねぇ、じゃありません。上が優秀だから普通にはできるはずの私が平均以下みたいな扱いを受けるのです……!許すまじ才能格差。」

「うん、それはわからなくもないね。僕も弟が優秀だからそういう対応をされてきたし。どれ、僕が勉強を見てあげよう。」


抱き上げられたままなので、抵抗できないまま図書室から出ると、バベルが「お嬢様!」と駆け寄ってきた。


「お嬢様が申し訳ございません。すぐに連れて行きますので……。」

「構わないよ。大事な従妹殿だ、僕にも少しくらい良いところをみさせてくれ。」


いとこ?ということは、もしかして。


「レオナール様?」

「ああ、伯父上や伯母上から聞いているのかな。自己紹介が遅れてごめんね?僕はレオナール。姫君、君の名は?」

「フィーネです。」

「ふふ、可愛い名前だね。さ、執事くん。姫君とお勉強をする約束をしたんだ。」


「案内してくれるかい?」とにこやかに告げる従兄殿、どっかで見たことあるような?いや、ないな。今世で見たことは多分ない。前世のゲーム内容も完全暗記しているわけではないからそちらかもしれないけれど。正直、ゲーム軸になるまで顔見て「この人はこのキャラ!こういうポジション!」って把握するの難しくないですか?私だけかな……。

一瞬、顔を歪めたように見えたバベルと一緒にお部屋に戻されてしまった。途中、ヒューお兄様に見つかってしまって「サボりはいけないよ。」と釘を刺されてしまった。これが初めてのサボりなのに。いや、うちの姉も兄もサボりなんかしたことないのだろうけども。


「上の4人はみんな優秀で真面目だからね。僕も魔法の分野だけでいうとそこそこなんだけど、他ではいつも頭を悩まされてきたよ。」

「何か一つでも得意なのは良いことです。私なんてどの分野でもいつも怒られてます。」


そう、いつもお姉様はこの時期にはこの学問を修めて……だとか、お兄様は弱音を吐きませんでしたよ……だとか言われるのだ。たとえ私が転生者だとしても前の人生とは常識も歴史もなにもかも違うのだから単純に私の能力で勝負しなければならない。結果、優秀な公爵家にあるまじき凡人だっただけだ。私は悲しい……。


「それで、わからないのはどこかな?」

「こことこっちです!」


我がお姉様とお兄様より年上の従兄殿ならば、もう少しわかりやすく教えてくれるのでは、という目論見は当たった。非常にわかりやすく、勉強のコツまで教えてもらってしまった。特に魔法の分野はすごく興味深かった。

奇跡的に課題を夕方までにほぼやり終わった私はそれはもうレオナールお兄様に懐いた。


「レオお兄様、明日もわからないところがあったら教えていただける……?」

「もちろんだよ。明日は外に出られるといいな。」

「はい!」

「「レオ……お兄様……?」」


精一杯年下上目遣いキラキラおねだりをしてお願いをしていたら、ドスの効いたショタ声が2つ聞こえた。

振り返ると、アルお兄様とヒューお兄様がプルプルしている。


「フィン、お兄様は私たちだけだろう……?」

「フィン、お勉強なら俺たちが教えてあげるから……。」

「アルお兄様もヒューお兄様も説明がわかりにくいのでヤです。レオお兄様に教えていただきます。」


肩に手を置かれたので、プイと顔を背けると、お兄様たちは非常にショックを受けていらした。知らん。わかりやすさを求めるなら絶対にレオお兄様である。

レオお兄様はお腹を抱えて笑っていた。


「アル、ヒュー。末の姫君は僕が良いんだって。」

「あくまでも教師として、ね?」


優雅に微笑むローズお姉様においで、とジェスチャーされたので近くに行くと、抱きしめられた。


「わたくしの可愛いフィン。あまり、うちの男の子を振り回してはダメよ?」


最高に可愛い笑顔で言われたので、お姉様が一番好きですという思いを込めて頷いた。「バベルと一緒に先に行っていなさい。」と言われて、食堂まで行った私は、お姉様がお兄様たちに何を言いたかったかは知らないのである。


「──グレイヴ家の殿方は、油断していると少し愛情が深くなりすぎる傾向があるのですから。」

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