隣の芝生は青い
ローズお姉様の作ったアロマキャンドルを抱えてテンション爆上げ天井知らずの私はクリス様とバベルにドン引きされた。
さすがお姉様やっていたら「お嬢様のシスコンぶりが天井知らずで申し訳ございません」とバベルがクリス様に謝っていた。なんで?
「兄弟姉妹、仲が良いのは良い事だよ。兄弟で骨肉の争いだなんて洒落にならないからねぇ」
「そういえば、たまにそういうお話も聞きますわね」
「うん。優秀な弟が気に食わない兄もいれば、優秀な兄に劣等感を拗らす弟だっている。姉妹でもそういうことがあるとは聞くしね」
「後継者争いの激しいお家は大変ですわね」
「そのあたりはフィーのところもウチもそう問題がないだけ良いよね」
「そうですわね」
のんびりとそんなお話をしていたけれど、そういえば私取り合われているらしいのに骨肉の争いにはなってないな、とかちょっと思ってしまった。ない方がいいし、私みたいなちんちくりんを巡ってそんな事態になったら歴史に残る。悪い意味で。
甘やかされ末っ子生活の果てがそれってめちゃくちゃ怖い。私が好感度を上げる何をやったのかがわからないというのが一番怖い。
「明日は劇か……憂鬱だな」
「とっても綺麗でしたもの。皆様クリス様に釘付けですわね」
本当にドレスが似合っていた。本当のお姫様みたいに。
あのクリス様やローズお姉様くらい美しければ、優秀であれば私も自信を持てたのだろうか。そういう問題でもないかもしれないけれど。
「……そんなもの、似合ったって仕方がないよ。それに前も言ったけれど、君の方が絶対に美しく着こなせるよ」
苦笑しながらそう言うクリス様。
「だからこそ誰もがあなたを欲しがる。そして、誰かに取られぬよう牽制する。君が知らぬ君の輝きを、己だけが見られればいいと願ってしまう」
「わたくしの知らない、わたくしの輝き……想像もつきませんわ」
「人の良いところなんてそんなものさ。自分では見えず、不安になる。けれど外から見たそれはとても美しい。隣の芝生は青いものさ」
そう言ってカップに口をつけた。
確かにそうかもしれない。
あなたは自嘲したけれど、クリス様だって私から見ればキラキラとした輝かしい人だ。
「ふふ、でも明日は精一杯引き立て役を務めさせていただきますわ」
「お手柔らかにお願いするよ」
私はあくまでモブで、自分の良いところなんてよくわからないけれど、あなたがそんな私を美しいと言うのなら信じてみたい。そんな気がした。