長兄の展示
なんかリオン様とユウも加わって探索することになっているの不思議である。アルお兄様の研究の展示は人が溢れていて入れなかった。時折歓声が聞こえる。
「一体何の展示なのでしょうか?」
「水の妖精と魔法についての研究だよ。光の加減によって染料や物体を使わずとも作り出せる芸術についてだった筈だ」
詳しく聞くと、前世でいうプロジェクションマッピングみたいなものらしい。主には立体に模様などを投影する技術を研究しているようだ。ただ、投影には妖精石の提供や光か火の魔法使いの協力があった方が確実性が高いらしい。
アルお兄様くらいになると「そんなもの、この規模なら私一人でどうとでもなる」とサクッと術式を完成させてしまったらしいけれど。アルお兄様の妖精さんが大喜びしていたらしい。いつも眠そうな顔をしているのにビュンビュン飛び回っていたとクラウス殿下はクスクスと笑いながら言った。
「見たいのならば冬季休暇の時に家で見せよう」
「本当ですか?楽しみですわ!」
「それはぜひ俺にも見せて欲しいな、アル」
後ろからいきなり現れたアルス・セレスティア殿下は楽しげに笑いながらお兄様に近づく。
「妹にもゆっくりと見せてやりたい」
「何が目的だ」
溜息を吐きながらユウがそう尋ねるととても良い笑顔で彼は言ってのけた。
「アナスタシアをアルヴィンに嫁がせようと考えている。他に思う女がいる王子に可愛い妹を渡す気もないし、アルならばリリアナの弟だから父上も気にいるだろう」
「お前な……」
「ユートの国は子どもができなかったら数年おきに側室を迎えるしきたりだしな。あれには合わないだろう。その点、この国は一夫一妻制だからな。身分も申し分ない」
「私を抜きに話を進めないでください」
アルお兄様がそう言うと、「一応、近日中に釣書が届く筈だ。よく相談しておけよ」とサラッと言われた。
「まぁ、アナスタシア様なら……」
「そうね、アナスタシア様なら仲良くできそうよね」
姉妹で頷いていると、「相手がどう思っているかまだ分からないだろう。勝手なことを言うものではない」とお兄様が言ったんだけれど、こっそり後ろからアナスタシア様が見てるの気づいているだろうか?
「異国に嫁ぐことが不安でないはずがない。こういうことは本人にもきちんと話を通してから話を持ち込むべきです」
呆れ混じりにそう言うアルお兄様に、アルス殿下は満足気に頷く。アナスタシア様も満足そうに頷いていたんだけど分かりづらいけど気遣いができる男ポイントでも入ったのだろうか。
「アルヴィンが婚約したら国内令嬢が泣きますね」
「ああ。……あと、圧が強くなるぞ」
「あまり考えたくありませんけど」
リオン様とクラウス殿下がこそこそと何か言っている。どうしたのかしら、と思っていればユウも何かを言った気配がした。振り返ると、いつものように笑う。
「あぁ、そうだ。フィーネ」
「何でしょう?」
「後夜祭の時、少しで良い。時間をくれないか?」
そう言われて「わかりましたわ」と返事を返した。
アルお兄様にはそのあと、「バベルとドロシーがいるとはいえ、男と勝手に約束をするな」と叱られた。