判明した勘違い
「何故、わたくしの邪魔ばかりするのかしら」
本当に不思議そうに首を傾げられた。いや、知らないってば。
「むしろ、何故わたくしがあなたに敵意を持たれているかが分かりませんが」
「あら、それは困ったわね。人の感情の機微はもう少し理解した方が良くってよ」
コロコロと愛らしく笑うナディアはどうやって私の目の前に来たのだろうか。なんかわっかんないけど、近づかないようにしてあるって聞いてたから多少油断してたのは認めるけれど。
「わたくしね、好いた人がいるのですけどね?」
「いきなりですね……」
「でも、フィーネが聞いたのではないの、何故敵意を持たれるか分からない、と」
こてんと首を傾げるその仕草すら可愛い。ナディア本当にこういう…こういうのホント可愛いんだけどなぁ。性格がなぁ。
「わたくしね、レオ様が欲しいの」
「あっ、頑張ってください。応援しています」
「え………?」
予想外の名前に反射でそう答えるとナディアは瞳をぱちぱちと瞬かせた。
「あなた、レオ様と特別親しいのではないの?」
「ただの従姉妹ですわ」
該当する名前の知り合いがポンと浮かんだのでそう返す。彼女は、「あらあら……!?」と三歩ほど下がったところで固まった。
そして、蹲った。
「つまり」
「はい」
「わわわわたくしは、いとこにしっとして公爵家に喧嘩を?」
「そ、そうなりますわね…?」
「えっ………?全てはわたくしの勘違い……?」
「ですわね」
肯定した瞬間、ボンっと顔を真っ赤にさせて「申っっっし訳ございませんわぁぁぁぁあああ!!後ほど各方面に書面で謝罪させていただきますわぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁああ!!!!」と叫びながら逃げていった。
お嬢様あれだけ大きな声出して怒られないのかな?ラドクリフ家は結構大らかなのかしら。
「なんでしたの?あの方」
「お嬢様、ナディア・ラドクリフ様とは関わりがあまりありませんでしたよね」
「ええ。ローズお姉様が全て対応してくださいましたわ」
一応、「あ、あれレオお兄様目当てで勘違いしてただけらしいですぅ」ってお姉様に報告入れておくべきだろうか?
レオナールお兄様に想いを寄せるなんて考えたことがないです。だってあの人黒幕系なので。黒幕じゃなくてもそういうことやりそうなのは知ってる。怖すぎて私の手には余る。
「レオナール様目当てだなんて物好きな方ですね」
「ドロシー。ああ見えてレオお兄様はモテますのよ?」
「研究だけが大好きなのに女に集られる」とボヤいているあの人と恋愛なんてできるのか、という疑問はあるけれど、あれで余所では…主に学院を出た後は立派な猫ちゃんを被っているのでナディアもそれに騙されて……いやでも、学院内のあの人結構やらかしてるし、それで気持ちが萎えてないなら本気中の本気ではないかしら?
「ここから先はわたくしが考えることではなさそうね」
そう言ってドロシーと廊下に出れば、「レオナール様、ナディアと結婚をしてくださいませ!!!」という大きな声が聞こえた。侯爵は王家に嫁がせたがってたのに台無しである。
そして秒で「え。嫌だけど」と言われて号泣しながら帰るし、お父さんにバレてタウンハウスに呼び出されてお説教されるし、お父さんのお説教は右から左。
なお、レオナールは普通に従姉妹への態度に怒っているし、色事が研究の邪魔すぎるのでフラグは自分で折っている。