思い出の音色
前世以来の屋台飯を堪能してから小物などの出店を回る。ちなみにベルはしっかりとセシルに手を握られていた。お兄ちゃんと妹に見える。
「…なんて繊細な細工」
「嬢ちゃん、お目が高い!コイツは北の職人が手作りしてるっつー一品でな。オルゴールっつーらしい」
「まぁ」
オルゴールって私が知っているものと一緒なのかしら、とどんなものか尋ねると、ネジを回すと箱の中の人形が回りながら音楽を奏でる自分も知るオルゴールだった。
「綺麗ね」
「だろう?兄ちゃん、妹さんや彼女にどうだい」
「そうだな……」
レイが少し困ったように笑って断ろうとした時だった。
「うん。買うよ。ちょっと臨時収入があったばかりなんだ」
クリス様がにっこにこで財布を開いていた。
ええ…王子様ってお財布持ってるの?
レイを見上げると、目がちょっと厳しくなっていた。滞りなくお支払いを済ませると、レイは妖精に何かを頼んでいた。
「クリス、大金を持ち歩くのは感心しないよ。こういう所には良くない連中も多い」
低い、小さな声で言われたそれに、「ちゃんと周囲に聞こえないようにはしているさ」とクリス様は防音のための魔道具をチラリと見せた。
「迂闊だったのは認める。僕もこの格好で人前に出られるのなんて最近あまりなかったから浮かれているんだろうね。ごめん」
「分かればいいよ。それに……何かあるようなら破滅が待つのはあちらの方だ」
そう言うレイの目は笑っていなかった。あ、はい。さすがお兄様の側近中の側近。手は打ってありそうですね!
荷物はレイが持ってくれているけど、ちょくちょく減っているので、うちの人間か王家の人間が多分荷物を引き取りに来ている。
そうやって回っているうちに鐘が鳴る。
「広場の準備ができたみたいだ」
そう言うレイの言葉に首を傾げた後で思い出す。
妖精祭は一定の時間になると中央広場でダンスパーティーみたいなものをやっている。原作でヒロインと一部攻略対象が妖精たちが発する光の中で踊るスチルは非常に美しかった。神絵師万歳。
今回の妖精祭はヒロインを攻略したヒューお兄様(間違ってないと思う)の姿もありそうだけど、レイは見つからないように手を回していそう。個人的にはとっても見たい。
レイに連れられて中央広場へ出ると、色とりどりの妖精たちが踊ったり単純にふわふわと周囲を周っていたりしていた。
ベルはセシルに手を取られて踊っている。彼らの耳にはもう音楽が聴こえているのかもしれない。
作られたステージで楽団が楽器を構えると、クリス様が手を差し出した。
「お手をどうぞ、お姫様」
その表情を見て、クリス様が王子様だったことを再認識して少し照れながら、その手を取った。
楽しく踊った後、帰宅する際に何かを手渡されて自分の部屋で開いた。
「……オルゴール」
優しい音色に、いい夢が見れそう、なんて笑みが溢れた。
思い浮かぶ笑顔は、とても美しいものだった。