お兄様はヒロインガチ勢
ヒューお兄様の婚約パーティーはとても盛大になった。
理由としては、「俺のミーシャに手を出すな」一択だと思う。コレ知ってる?お兄様がお休みとかに魔物狩ったりして手に入れたお金で賄われてるんだよ?私のお兄様、顔と腕っ節に甲斐性まであるなんてさすが過ぎる……。あと執念がちょっと怖い。
「ヒュー様は本気が凄すぎる」
ミーシャさんがそう言って遠い目になっていた。今日のミーシャさんはアイスブルーのドレスとサファイアのネックレスと婚約指輪、シルバーのティアラにもサファイアが輝いている。
ヒューお兄様がとても張り切って手配したらしい。ポケットマネーで。
ヒューお兄様がいれば多分どこでも暮らしていけるね。
「これを見てヒュバードの本気がわからない人間は馬鹿だから、突っ込んでくる方は縁を切った方がいいかしら」
「ロザリア様、そんなことくらいで縁を切ってたらどれだけの方を敵に回すか…」
「ヒューを敵に回すより楽だと思うのだけれど……」
コテン、と可愛らしく首を傾げるローズお姉様は世界遺産登録済級な可愛さである。語彙力が溶ける。推しの可愛い顔本当にありがとうございます。でもこんなお姉様見てると「ヤバい」「可愛い」「無理」「天使」とかしか出て来なくなっちゃうので非常に問題です。私の脳が。
「フィン、幸せそうな顔ね」
「はい!お姉様の笑顔がフィンの幸せです!」
「……フィーネ様も相変わらずですね」
最高美人可愛いローズお姉様を目の前で見れるのが妹の特権なので。
…嫁いじゃったら見れないんですよね。辛い。
「俺より先に婚約者のところにいる妹ってどうなんだ?」
控室に呆れた声で入ってきたヒューお兄様。ちなみに扉が全開だった。
「あら、ミーシャさんの身の回りのお世話ができるのは同じ女性の特権ですわ?」
「お義姉様になる方ですし、ちゃんと準備のお手伝いをしましたわ」
二人でミーシャさんを真ん中にして集まると、ヒューお兄様が小さい声で何かを言った後に正気に戻ったかのように「こら、俺たちを揶揄うんじゃない」と口にした。
「そうね。行きましょうか、フィン。わたくしたちも準備をしなくてはいけませんし」
「はい、ローズお姉様」
お祝い事のパーティーって基本家族総出だものね。私のデビュタントはヒューお兄様さぼりましたけど。
お父様が淡々と怒ってくれたのでいいです。やはりお父様が最高。頼りになるのはお父様。お父様が素敵すぎてファザコン拗らせてるのは私です。
ローズお姉様が好きすぎてシスコンも拗らせています。
そうして開催されたパーティー。
ヒューお兄様と正式に婚約したミーシャさんに喧嘩を売る方はやはり少なかった。居たは居た。即行叩き出された。公爵家関連で叩き出されるとかちょっと社交界でヒソヒソ言われるから気をつけたほうがいいと思う。
恋して愛されると女の子は変わるものなのかな?
そう思いながら堂々とヒューお兄様と踊るミーシャさんを見ていると、気がついたら周囲を男性に囲まれていた。
「フィーネ嬢、一曲ダンスはいかがですか?」
「いえ、私と庭にでも」
「あちらでお話を」
公爵家のフリーのお嬢様なんて社交の場に出ればこんなものである。結婚したらお金がとっても動くので。
デビュタント前のお茶会とかでも囲まれてたけど本当の本当に私が小さいせいで周囲が声を発する怖い壁にしか見えない。
なんで囲む。
なんで一人ずつ来ない。
「いえ、わたくし今日はもう……」
「フィーネ」
聞こえたお父様の声にどこかしら、とそわそわしてしまう。ああもう邪魔!お父様が見えないじゃないの!!
ベルが手前の筋肉ダルマの向こうだと言うので、溢れるパッションとかその他諸々を抑えて一瞬だけ魔法で光を発して目眩しをする。隙をついて声の方に向かうと、お父様はホッとしたような顔をした。
「お母様がお前を探していたよ。フィーネは小さいから、なかなか見つけられないと心配していた」
「そうでしたの。なんだか大きな方が周囲を囲んでくるので余計にですわね!気分最悪でしたけれどお父様が迎えにきてくれたのでよしといたしますわ!」
「はは、君は私たちの可愛いお姫様だからね」
そう言って微笑むお父様本当に私の理想。やだー!お姫様とかもう一回言ってー!!
……やっぱりお父様見てたらあれらと結婚できる気しないな。いや別にお父様に恋愛感情抱いてるわけじゃないけど。
「フィーネの中の父上に勝てる男とかこの世に存在するのかな」
「これを見てしまうと否定できませんね。殿下たちちょっと可哀想……」
婚約者ガチ勢でもあるけれど妹大好き勢でもあるので小さい声で言っていたのは「この瞬間を絵に残したい」。