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花の離宮



目を覚ますとメイドのリズベットが心配そうに見ていたので、元気ですよ、という気持ちを込めて笑顔で「おはよう。」と挨拶をする。



「お嬢様、おはようございます。お身体は大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。心配をかけました。」



夢がなんかリアルでちょっと疲れてる気もするのだけど「寝ていて疲れました。」なんて洒落にもならないものね!ご飯をしっかり食べたらきっと今日も元気いっぱいになれるはず。


ご飯を食べて、お父様が帰っているか聞いたらまだ帰ってきてないとのこと。結構大変なことになってるのかしら、なんて私が考えても仕方がないだろう。私はあくまでも高貴なモブ令嬢。お姉様関連以外では何をする気もなくってよ!お兄様?お兄様はできる子だから大丈夫です。なんならヒロインがゲームになかった逆ハーエンドを目指して使い物にならなくなっても私が婿を取っても良いわけですし。でもお兄様本当にできる子なので大丈夫大丈夫。



「フィーネ、体は平気?昨日は魔法を使いすぎたと聞いたけれど……」

「リリィお姉様、私は元気ですよ!」



心配して来てくださったお姉様にそう言って笑う。実際、ちょっとだけ夢のせいで疲れているだけで、元気なのだ。



「そう、よかった。お父様ったら昨日疲れてぐったりしていたフィンを王宮に連れてこいとさっき迎えをよこして来たのよ。」



「信じられないわ!」と頬を膨らませるリリィお姉様の後ろからヒューお兄様が苦笑しながら近づいてくる。



「フィンは昨日の当事者ですから、父上も断れなかったのでしょう。父上も帰ってきてから母上にこっぴどく叱られることが決まってしまったようなものです。」

「それは……お父様も可哀想かもしれないわね。」



お父様はお母様が大好きだもんね、という気持ちを込めてリリィお姉様の言葉に頷く。お父様が諸悪の根源というわけではないし。


リズベットに余所行きのドレスを着せてもらって馬車に乗る。魔法が使えるからといって全てを魔法で賄えるわけではないのが辛いところだ。車と違って馬車はお尻が、辛い。イイトコのお嬢様なのでまだ良いクッション付きの馬車を用意してもらえるけれど、それでもちょっとお尻が痛いのだ。きっと市井にあるという乗合馬車とか乗れない。この世界の庶民の生活など私にはできないだろう。昔、私が日本の学生だった頃に読んだ転生ものの小説では庶民の暮らしに適合するお嬢様のものも見たけれど、少なくとも甘やかされて育った私は、ここから市井に落とされようものなら1週間も生きられないなと思う。

いや、高貴なモブ令嬢はよっぽどの事しない限りはお父様とお兄様に守っていただけると信じているけれど。婚約云々も含めて。


王宮に着くとなんかたくさんの花が咲いている離宮とやらに連れていかれた。なるほど、これだけ美しければ花の離宮だなんて呼ばれるだろう。ただ乙女な趣味を持てなかったので花の名前すらよくわからない。よく見るものはなんとなくでもわかったりするけれど。品種とか言われてもわからないと思う。



「来たか。」



疲れた顔で私を抱き上げるお父様。「連れて来るつもりはなかったのだけれどね。すまない。」と言うお父様に「おはようございます。フィンはお父様とお会いできて嬉しいですよ。」と返す。癒しの魔法をかけてあげたほうが良いのかもしれない。

離宮の奥の部屋に着くと、勝手に扉が開いて銀髪の女性の後ろ姿が見える。指定した人物が現れると開くという魔道具なのかもしれない。大きい扉だと自動ドア機能便利だな。そこで降ろされて、手を繋いでベッドの横まで歩く。



「ギルバードですか?」

「はい、ソフィア様。リオンハルト殿下は目を覚まされましたか?」

「ええ……、少しだけ。ですがすぐにまた眠ってしまって……。」



悲しげに顔を伏せる彼女は儚げな美女だった。ソフィア様、というのはおそらく側妃様のお名前だろう。

お父様はしゃがんで私に目を合わせる。



「フィン、殿下をその魔法で癒して欲しい。できるかい?」

「でも、王宮には癒し手などいくらでもいるのでは……?私のような未熟な癒し手が魔法をかけてもよいものでしょうか?」

「私も手を尽くしたのだが、癒し手が出払っていると言われてしまってな。光の魔力持ちすら引っ張れない。幸い、殿下ご自身の魔力のおかげかさほど衰弱はみられない。」



君が頼りだ、と。幼い娘に頼らねばならない自分が情けない、と自嘲するように言うお父様の頭をよしよしと撫でる。なんかわかんないけど多分政敵とかの嫌がらせだろう。人の命がかかっているのにそういうことをするというの、私には理解ができないけれど、貴族と付き合うとはそういうこともあるということだ。毒殺とかもあるって聞くし。殺伐、怖い。



「お父様。先ほども言いました通り、私は未熟な癒し手です。できるかどうかはわかりませんが、妖精さんに力を借りて頑張ってみます。」



妖精に心で呼びかけて、共に彼を癒して欲しいと請う。いいよ、と彼女からの応答を聞いてから「ありがとう。」と笑顔を向けて、殿下の手を握った。慎重に魔力を流し込んでいくと、殿下の体から温かいものを感じて、それを引き上げていく。作業を始めてすぐに殿下の妖精さんも殿下に力を送り出した。

殿下に来ていただくよりも、私が来る方が早かったですね。殿下に拒否権がなかったのが申し訳ないのですけど。

そんなことを考えながら癒しの魔力を送り込んでは引き上げることを繰り返して、数十分経ったころ、殿下の手が動いた。



「リオン!リオン、聞こえていますか!?」

「ん……はは、うえ……?」



小さな声だったけれど、確かに聞こえた返答にソフィア様が泣きながら崩れ落ちた。



「ありがとうございます、ありがとう……!わたくしの息子を助けてくださって……!」



私にものすごく感謝してくださっているけれど半分は妖精さんたちのおかげだし、4分の1くらいは殿下の魔力のおかげである。属性が光でなかったらおそらく死ぬか、生きていてもそう長い命ではなかっただろう。



「フィーネ嬢……?それにグレイヴ公爵も……。」

「殿下、ご無事なようでなによりです。」

「…ッ、私に呪詛をかけた闇の魔法使いはどうしました!?」

「捕まっておりません。アーノルドが痕跡すら見つけられなかったこと、このタイミングで癒し手が捕まらなかったことなどを考えるとおそらくは王妃殿下からの刺客であったとみてよいでしょう。」



お父様、それ私が聞いていいことじゃないのでは。



「娘の魔法と殿下の光の魔力のおかげで事なきを得ました。陛下もこの件については御心を痛めておいでです。」

「陛下はこのようなことがあってもなお、わたくしたちを王宮に留めておくおつもりなのですか?」



そう悲しげに言うソフィア様は曰く、息子の命が守られぬならば実家に戻りたいらしい。確かにこんないつ殺されるかもわからない環境に身を置くのは嫌だと思う。



「陛下もですが、おそらくはレイトン伯爵もそれを許してはくださらないでしょう。」

「お爺様は権力にご執心のようですからね。」



難しい話をしてるな、と思いながらじっとしていると、侍女の人がお茶とお菓子をくれた。「ありがとうございます。」とお礼を言うと可愛らしい笑顔で戻っていった。

「実録、王宮の怖い話」みたいな話から逃げて、私には勿体無い高級な紅茶と美味しいお菓子を堪能していると、肩を叩かれた。振り返ると、美少年(殿下)が微笑んでいた。



「ああいった話は苦手ですか?」

「ええ。私はお兄様やお姉様たちのように頭が良くないのです。あと単純に、噂話や関係のない話と割り切るには公爵家という立ち位置が話題に近すぎて、いつ我が身がそうなるかと考えると怖くなってしまうということもあります。」



とはいえ、身分と自分の身を考えるならお勉強も社交もしないといけないことも確か。だって、ちゃんと馴染まないと暗殺されると嫌だしこの国の貴族に嫁ぐとは限らないし。



「本当は、私から貴方に会いにいくつもりだったのですが……先を越されてしまいましたね。」

「殿下がお寝坊さんなので迎えに来てしまいました。」



ふふ、と笑うと「意地悪を言われてしまいましたね。」と殿下も笑った。うんうん、美少年は笑顔も美しいな。スチルかな?まぁ、殿下は攻略対象じゃないけれど。薄幸の美青年ポジで入りそうなものだけれど、もしかしてゲームでは呪詛が解けなくて、命を燃やしながら戦った結果が敵という感じだったのかも。……フラグ折っちゃった?いやでも平和に勝るものないよね。

その後、ソフィア様とのお話が終わったお父様が警備について見直さなければいけないとかで出て行き、私はアーノルドさんとお家に帰ることになりました。アーノルドさん、昨日会った宮廷魔導師さんでした。10代みたいな見た目なのにお父様と同い年だったり、口調が丁寧なのか雑なのかわからなかったりするけどお父様が信用しているようなのでいい人に違いないよね!

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