王子様はたった一人を見つめている
リオン様の前にリズベットの入れたお茶が置かれる。こちらをじっと見てくるリオン様の瞳から逃げたいような、見つめ返したいような焦ったい気持ちがある。
「そんなに見つめないでくださいませ」
「えっ…あぁ。すみません、無意識でした。それに」
花が綻ぶような幸せそうな笑顔で彼は微笑む。
「あなたの様子を見てやっと、私も意識してもらえるようになったのだ、と少し浮かれているのかもしれません」
そういうの、罪悪感を煽られるからやめて欲しい。
ちょっと不貞腐れてみたいけれど、淑女なので!私は!淑女なので微笑んでみせましたわ!
「フィーネ、妖精祭の件は考えていただけていますか?」
「ええ、まぁ」
全てお断りの方向で。
だって、兄弟をこちらが選ぶとか絶対にヤバいことにならない?高貴な人は大丈夫なの?そんなわけないよねぇ…。
せめて婚約申し込んでくれているのがみんな別の家の人なら多少は家の都合とか考慮もしつつお父様たちと相談しながら誰かの手を取れたかもしれない。
…あくまで可能性だけの話だけれど。
私ってば自分が男性を選ぶって経験がないから考えるたびに熱が出そうになる。
「私たちは、恨みっこ無しだとギルバードに念を押されています。あなたが誰の手を取ろうと祝福…はできませんが」
「あっ、できないんですね」
「そこまで人間できていません。私だってあなたより一つ歳が上なだけですよ」
リオン様みたいな聖人そんなにいないよ!って思うんだけど。いやクラウス殿下も大概聖人だよね。陛下に頼んで王命で召し上げる事だってできたはずだし。
陛下、妃殿下に思いっきり尻に敷かれてるので。
とはいえお父様がいなかったらとうの昔に私求婚してきた誰かと婚約してると思うから本当にヤバいのは身内かもしれない。
「おめでとう、なんて言えやしませんが、あなたの幸せだけはいつも祈ります」
そう言って微笑むリオン様。
人間できすぎてる。
「皆さま、わたくしに甘すぎますわ」
「それだけあなたを大事に思っているのですよ」
彼がそう言った時、足音が聞こえてそちらを向くとアルお兄様がいた。
「殿下、迎えの方がお待ちですよ」
「わかりました。ありがとうございます。……では、名残惜しいですが」
席を立ったリオン様が近づいてきて私の髪に口付ける。
「またお会いしましょう」
切なげな表情が妙に頭に残ってしまった。
そしてこの後お兄様は無の表情で妹の髪をハンカチで拭っている。