次兄の婚約
長い間置いといてすみませんでした…。
また、少しずつ更新できればいいなって思ってます。
ヒューお兄様の婚約パーティーのお知らせが出回った頃、多くの令嬢が参加するお茶会は阿鼻叫喚に包まれていた。ヒューお兄様は格好良いし、王都にいれば将来的に近衛や軍部での地位を約束されるくらい才能豊かだったので婚姻相手として非常に好ましく、アルお兄様と同じ教育を受けているので婿として欲しがっている家も多かったと聞く。
…我が家が権力とかそこまで欲していないことや、シュトレーゼ家が派閥に属していなかったことから勢力図に影響はないんらしいんだけど、それはそれとして不服に思う人たちが多くいるのも確かだ。
「ヒュバード様は大変おモテになられましたものね」
「ヒューお兄様が嫌がる事をする方の方がここ数年多かった中、好きな人を見つけられたのは幸運だったのでしょうね」
セーラとそんな事を話していると、お庭の先に二人の姿が見えた。初めはヒューお兄様の一方通行脈なし怯えられて逃げられる、という様子を見ていたけれどこうしてみるとミーシャさんも意外と満更でもない感じ。というか、何があったかは知らないけれどラブラブに見えます。いや、イベント見せてお兄様!ダメかなぁ……。ダメか。
ま、ここから見える二人が美麗スチルなのでヨシ!
「わたくしたちもそろそろ婚約が決まってくる頃合いですし、少し羨ましいですわね」
キャッと頬を両手で覆ってセーラは恥じらっている。この反応はおそらく……。
「実は、ゼファード様から婚約の打診がありましたの!」
やっぱりかーーーー!!?
どんどん空いている令嬢が少なくなっている。ちょっと気がついたら王城でお飾りになってそうなところが怖い。なんて言ったって王子様三人とも婚約者無しなのが怖い。
理由はお前だろって?いえ、もう…あの、ごめんなさい。許してください。鈍くてごめんなさい。まさかそんなことになっているなんて思っていなかったのです、本当です。
リオン様もクラウス様も良い人なのでひたすらに罪悪感がやばい。今会いたくないレベル。だけれどガンガン「妖精祭一緒に行かない?」というお誘いが来る。
(お母様は気を持たせるつもりがないなら断った方がいいわ、って言っていたけれど)
現陛下が問題を起こしてきたとはいえ王家の人間からの誘いだ。気軽に断ったりはできない。いや、あらゆる事を断ってきているお父様が凄いのです。さすがお父様。最高の殿方。世界で一番の男。
「おめでとうございます、セーラ様」
「はい!ありがとうございます、フィーネ様」
可愛らしい笑顔を見せるセーラ。さすが私の友人。可愛い。これにはホーンス様も泣いたに違いない。可愛い妹の婚約とか辛いに決まっている。私だってリリィお姉様が嫁いだ時はすぐに会いに行けない距離もあってガチ泣きしかけた。ローズお姉様が嫁いでしまわれたらきっと周囲が引くほど泣きながらクロイツ様を睨んでしまいそうで今から怖い。
「それで、婚約発表は妖精祭の後か冬季休暇の時がいいかで今お父様とお兄様が揉めてて…」
「そうなのですか?」
「ええ。お兄様が婚約なんて早いって言うんです。わたくしだってデビュタントを終えた立派な淑女だと言いますのに!確かにまだこの国以外の言葉は二か国語しか使えませんけど」
頬を膨らませるセーラの頬を軽く突いて、「淑女は頬を膨らませてはいけませんわ」と微笑んだ。セーラの可愛さ際立っているけど、それで周囲に足を引っ張られるのは彼女なのだ。
「そうですわね。わたくしもあの方に釣り合うように頑張らなくては」
恋する少女の顔でセーラはそう言う。
恋しい方に釣り合うように、か。
私にとってそれは誰だろうか?
ふと、そう考えていると「フィーネ」と声をかけられた。知り合いの来客の予定があったかしら、と思ったがそんな記憶はない。
振り返れば、日に照らされてキラキラと光る金の髪が目に入った。少し長くなったその髪は緩く結えられ、風にふわりと舞う。
瞳と瞳がかち合って、溶けるような蜂蜜色に捕らえられる。優しく細められた目に、どきりと鼓動が高鳴ったのはクラウス殿下から聞いた婚約の打診の事を知ったからだろう。
「ホーンス嬢もこんにちは。この度はゼファードとの婚約を心から祝福します」
「ありがとう存じます、リオンハルト殿下」
礼を取るセーラは、休暇前よりも洗練された姿勢になっている。きっと、好きな人のための努力の一つなのだろう。
「そんなに畏まらなくとも構いませんよ。私はただ、友人の祝福に来ただけですので」
そう言って微笑んだ殿下は私を見つめる。
何か察したような顔をしたセーラはいきなり、「用事を思い出しましたわ」と言って帰る準備を始めた。
待って!待ってくださいませセーラ!!
今の私をこの方の前に置いていかないでくださいまし!!
フィーネ「ヒューお兄様もだけれどゼファード様も行動が早すぎる。攻略対象怖い」