ヒロインだから気軽に恋愛もできない(side ミーシャ)
エメルダに目をつけられているせいで、その派閥の人には遠ざかられて、ローズ様の周りにいる男性は嫡男が多い。
そして、攻略対象で婚約者がいなくて身分が釣り合う男性……狙えるのってアレンくんぐらいなんだけど一年の接点って合同授業くらいだし、組むのも運だし、問題令嬢達のせいで出没場所がみんなぐちゃぐちゃでイベントが起こるのも難しい。
いや、うっかり殿下とのイベント場所に向かっちゃったけど、イベント起こらなくて良かった。神に感謝した。
王族とか絶対に嫌だ。死亡率跳ね上がるし。レティシア様かフィーネちゃんに任せる。二人なら身分的に王子様とも釣り合うよ!だから二人なら王妃様に殺されるエンド迎えなくて済むからどちらかはクラウス殿下と結婚してお願い。
そんなことを考えていたのが悪かったのか、最近追いかけてくる相手が増えた。
公爵家の次男、道を踏み外したが最後、ヤンデレ一直線ヒュバード様である。
それとなくローズ様に相談したところ「一途なのは良いことではなくて?」と。フィーネちゃんに相談したところ「全てを捨てて逃げる覚悟はお有りですか?」と言われた。後者はガチトーンだった。
でも、実際のところ伯爵令嬢的には好物件なのである。
うちの両親は良い人なので私の意に沿わない婚約とかはさせないと思うけれど、よその家なら私の意見ガン無視で婚約が決まるレベルだ。
この学院に通い始めて、慣れるまでも怯えは消えなかったけど親切にはしてくれた。今でも怖いけど。ゲームの件を知らなければ絆されていたに違いない。
心中監禁をするような人間になった理由は……恋をすると一人しか見えなくなる性格が故って設定資料集に書いてあった。深い理由……書いてなかった。ライバル令嬢に関してはそこまで書いてなかったけど、ローズ様もそういうとこあるから性格……そういう生まれ持っての性質かもしれない。
いや、モブというかゲーム出ない人にもある程度目を向けたのだ。次男以降を聞いて。
……トラント男爵令嬢元取り巻きとかだった。
他にもちょっと色々あったので候補には考えられなかった。
「何をそんな悩んでるのさ」
「別にその為だけに来たわけじゃないけど、ローズ様見てたら私も恋愛したくなっちゃって……」
「ヒューくんじゃダメなの?」
「そこはかとない恐怖を感じる……」
走り回るのに疲れてケビンくんについて研究室にきて、問われた事に答えると彼は苦笑した。
「ヒューくんは好きになったものしか見えなくなっちゃうもんねぇ」
「そうなの?」
「昔は下の妹ちゃんが襲われかけて、こんな事になるのならいっそ一生家に縛りつけてしまえばいいって言って実際にやろうとしたよ」
「何それ怖い」
妖精関連以外はまともなケビンくんに言われるヒュバード様。そりゃ彼女も諦めた顔するよね。
「実際、良い人ではあるよ。ルナ、もういいよ、ありがとう」
「構わなくってよ!」
試験管に魔力を入れていたルナがふふんと胸を張った。非常に可愛い。
ちょっと和んでいたら、研究室のドアが急に大きな音を立てて開いた。
「オレンジ頭!貴様、俺との決闘を無視して、またつまらん研究なんぞをしているのか!?」
「誰がオレンジ頭だ。赤毛とか色々言い方ないの?」
「オレンジだろうが!」
「というか、おまえ相手にする時間惜しいんだけど」
ケビンくんがこんなに塩対応するのは珍し……くもない。いや、この対応するのはコンラート・ゼファードに対してだけなんだけれど。
コンラートは侯爵家の嫡男でなんかちょっとアレな言動をするキャラだけど、これケビンくんに喧嘩を売らないと気が済まないだけなんだよね。仲が悪い原因が小さい頃にセーラに告って、「お兄様と結婚するから無理!」って言われたからという……。
たぶん小さい子のちょっとカッコいい男親・兄を持つ少女特有のものだけど彼はそれからケビンくんより優れる人物であろうと努力した。その結果を示そうと決闘を仕掛けてくるけれど、ケビンくんは争う意志がないので無視しているという。
小さい頃に片がつけば良かったけど、ゼファード様は外交官の家なので各国を転々としているうちに学院に入る年齢までもつれ込んだ。拗らせている。
まぁ、そういう彼と一緒にいるうちに彼に自信をつけさせる、みたいなのがコンラートルートだ。なお、彼のルートで魔王と対峙する際に、彼のステータスを上げ切れていなかったり自信がそんなにつけられなかったなら、いくらレベリングしてもヒロインは死ぬ。なんて理不尽な。
それを考えるとヒュバードルートって心中以外の死亡ルートないんだっけ。
ちなみに一番酷い死に方はクラウスルートの中ボス戦後。親愛度が高くて魔力バロメーターが低い状態になると、リオンハルトの母親が出てきて、詳しい情景描写はなかったけど画面が真っ赤になって文章欄が「痛い」とか「助けて」とかになる。しかもその時死んでなかった。どこかに連れて行って男達に引き渡されて感染病で死んだって書いてあった。
……クラウス殿下ルートに行きたくない一番の原因である。リオンハルト殿下、なんというか朗らか清廉系男子だけど怖くて近寄れない。中ボスにならないでお願いだから。
「シュトレーゼ!おまえはこの軟弱者が恋人でいいのか!?」
「恋人ではありません、お友達です」
「俺は恋人でもいいけどねぇ」
続けて言われたけれど、ケビンくんは長男だから困る。今から養子取るのって大変らしいし。
「それでは俺の恋人になる事を許す!」
「すみません、私一人娘なので婿入り希望です」
「じゃあ、二人ともダメだな!!」
張り合って言ってきたけど、事情を話すとサッと引いてくれるだけまともだ。ケビンくんは「僕と君の次男以降を養子にしたら良くない?」とか言う。出産は命懸けなんだぞ、一人産んで私が儚くなったら終わりじゃないの。
「君たち、何やってるの」
ヒュバード様が呆れたような声でゼファード様の首根っこを掴んだ。
ゼファード様がびくともしないとこを見ると本当にそこそこ腕が立つのかもしれない。
「また喧嘩?」
「喧嘩ではない。幼少の頃の雪辱を果たすために決闘をするのだ!」
「俺は興味ないんだけどねぇ。ヒューくん、なんかいい案なぁい?」
「次の中間考査とかで勝負したらいいだろう?順位が出るんだから」
平和的でいいし、とか続ける。
あと、ケビンルートは中間考査でケビンがコンラートに魔法科目で負けた場合親愛度と魔力バロメーターがエグい下がり方する。その1回のせいで死亡ルートにもつれ込む可能性もある。なんでフェアプリこんなにヒロインが死ぬんだ。
死亡ルート以外の物騒フラグなんだっけな……。ヒュバードの監禁と、ケビン黒幕戦敗北ルートの廃人、アルヴィンルート中盤親愛度不足によるライバル令嬢から手足ぶった切られるやつがやばいのだっけ。
……ヒロイン辞めたい。
同意した二人から離れるように、そろっと研究室を出た。
ヒュバード様が後ろからついてきていたので、なんでここに来たのか聞いてみた。
「……君が困っているような気がしたから?」
感覚的なものだから説明し辛いなぁ、と続けるヒュバード様。
これ、好感度上昇イベ結構こなした後に出る会話だぞ。これが聴けるのはゲーム内では中盤以降。つまり夏季休暇より後だ。なんでこんな事になってるの。
……そもそも、原作との差は。
まさか、ローズ様とフィーネちゃんの親愛度を上げるとヒュバード様の好感度が爆上がりするとかそういうオチじゃないよね?
そういうオチです。