お茶会で巻き込まれました
そんなこんなで私も6歳になりました。
お茶会に出席できる年齢になってしまったのですよ。元々の魂的なものが一般庶民だから正直ちょっとこういうのは困惑してしまう。
王家主催のお茶会というと王子様との顔合わせが主な目的となる。男の子の親は側近になれるようにと言い聞かせ、女の子の親は少しでも気に入られるようにと送り出す。
……いいのかな?
第2王子っぽいショタ、どこぞのご令嬢にカエル投げてるけど。
少なくとも私は近寄りたくないな。うちはそういう権力争いの場とは無縁なところがあるので少し遠巻きに見ていても許されるけれど。
なので目の前で優雅にご挨拶をする姉たちや、年齢が二桁にならないうちから女の子に囲まれる兄を見るとすごいなと思ってしまう。社交界に出る前の練習期間のようなものなのだろうけど値踏みするような笑顔は恐ろしい。
それでもいつまでもお母様の後ろに隠れているわけにはいかないのでニコニコと笑って淑女らしく挨拶をしてみせる。何かあったらニコニコ笑ってお嬢様らしくお茶を飲んでいればいいのです。
とはいえ、そういうのも疲れてしまう。
「お母様、少しお庭を見てきてもいいですか?」
「いいけれど、あまり奥まではいかないようにね?」
お母様に「はい!」と返事をして薔薇が咲き誇る庭へと足を進める。肉食獣の檻にずっといるよりは花を愛でる方が気が楽なのだ。
アルお兄様も言っておられた。「ほどほどに相手をしたらトイレに行くふりをして庭や図書室に逃げ込むのが一番だ。」と。
王子様たちがお茶会の目立つところにいれば女の子たちはそこに殺到するので意外と楽に逃げられる、とはヒューお兄様のお言葉である。
のんびりと歩いていると、大きな声が聞こえた。一瞬、なにかが弾けたような音が聴こえて首を傾げる。妖精さんがいることを確かめて、ソロっと音のした方に近づく。すると、胸を掻き毟りながら苦しそうにしている少年がいた。思わず近づいて、手を握る。
「どうしよう……っ!ベル、ベル……!」
妖精の名前を呼んで、「お願い、どうか癒しを」と彼女に祈る。必死に光の癒しの魔術を送り込んでもまだ幼い私の魔力では足りないらしい。
元々……、元々、私は転生したとはいえ日本という比較的安全な国で生きてきた女性の価値観と知識を持って生きている。おまけに現在は公爵家という地位の高い家に生まれ、親は優しく愛情たっぷりに育てられたため安全を脅かされるということがほとんどない。
だから、怖い。恐ろしい。
目の前の少年から何か大切なものが零れ落ちていく様子が。
苦しみ、必死に足掻く様子が恐ろしい。
だから怖くて号泣しながらでも繋ぎとめようと頑張っている。
金色の光が舞って、鈴の鳴るような音が聞こえた。その時、男の子の妖精が現れて私が握っている少年の手に触れた。ベルとその子と私、それから何かの魔力が共鳴して光が少年の体を包む。
すると、黒い靄が体から追い出されるようにして出て行く。
「フィーネ、どうした!?」
号泣していたからかヒューお兄様が慌てた声で近づいてきた。
「おにいさまっ、このこ、たすけて……!」
「この子……?リオン!?待ってろ、父上を呼んでくる!」
慌てて走っていくお兄様と入れ替わるように、血相を変えて走ってくるお兄さん。少年を見て青い顔で「呪詛の残滓が……いや、しかし……」と戸惑うように呟く。すると、数人の足音とともに私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「フィーネ!」
「お父様……!」
私の手を取って「大丈夫だから落ち着きなさい。」と微笑むと、お兄さんに目を向ける。
「今、貴方と医師を呼びに人をやったところだった。殿下の異変に何か心当たりはないか?」
「見たところ、わずかですが呪詛の残滓が残っていますね。しかし、おそらく強力な呪詛であったと感じられるのに呪詛自体はすでに消えているようです。
お嬢様、私が来る前にだれか殿下に触れましたか?」
「い、いいえ。私以外はお兄様が探しにきてくださったぐらいです……。」
「……閣下のお嬢様は光の魔力をお持ちですか?」
「ああ。……まさかこの子が解呪をしたとでも?」
「聞き取りと調査を行わなければ何とも言えませんがおそらくは。光の妖精が2体いることもありますし……。」
「あの、男の子の妖精さんは彼のだと思います。」
恐る恐るそう口に出すと、お兄さんは首を横に振った。
「……殿下には魔力がない。」
「でも、私の妖精と癒しの魔力を流した時に殿下の中からふわって金色が溢れて……。」
「クレイ、確かめてくれ。」
「だがおまえも、」
「本当だった場合、何としてでも王妃様から離す必要がある。もしそうなら殿下や周囲が気付いてからでは遅いのだ……!」
「確かに。何らかの原因で魔力が後天的に現れるという報告も非常に稀有だがないわけではない。」
彼は自分を落ち着けるように深呼吸をして、懐から出したガラスの試験管の内から銀色に輝く液体を取り出した。そして、小さな声で詠唱を行いその液体を殿下にかける。すると、金色の小さな球がふわりと舞う。
「光の魔力属性……量はA、質はSというところか。異常魔力は検出できない。驚いた、魔力無しが魔力を得るなどという症例を目の当たりにすることになるとは。」
「陛下と側妃様に内密に連絡を入れる必要があるな。リオンハルト殿下は花の離宮へ運ぶぞ。あちらへは王妃様は足を踏み入れられぬゆえな。」
なんか目の前で怖い感じの会話が続けられている。これ私が聞いていいことなの!?
「フィーネ、おまえは平気か?どこも痛いところはないか?」
「ちょっと疲れてますけど、それだけです。お兄様、お父様を連れてきてくださってありがとうございます。」
ホッとしながら差し出された手を取る。
ヒュバードお兄様はお父様に「フィンを連れて母上のところに戻っても?」と聞くと、お父様も「ああ、フィンを頼む。悪いがディアに今日は帰れないかもしれないと伝えてくれ。」と言う。手を引かれて戻ると、お母様が泣き腫らした目を見て驚いて、家に急いで戻ることとなった。
リオンハルト殿下だっけ。
無事だといいな。