禁術に近い魔法
「アレンに何をしたの!?」とドン引きする勢いで突撃してきたトラント嬢をグロース様自身が「おまえにはもうウンザリだ!」と追い払う事態が目の前で起きて、その面倒さに頭を抱えた。
いわく、今まで彼女と話していた時の多幸感だとか、頭に靄がかかる感じが状態異常防止アイテムをつけた後からなくなったらしい。
……幼馴染みになんで魅了かけてんの、あの女!?
クリス様に聞いたところ、むしろ「幼馴染みだからこそかけていたんじゃないか」とのことです。
あまりにも私と違う思考の持ち主だから理解ができないよ……。
「君が闇の魔法使いだったら何をする?」
「そうですね……。まず占いを極めて家族が不幸に遭わないように徹底的にラッキーアイテム作成を頑張ります」
「世界が君のような人ばかりなら平和でよかったのにね」
答えを間違えたらしい。
眼差しが生温かかった。
ガチャリと音がして、扉が開く。頼んだ本を持ってきたらしいバベルと、当然のように入り込むアルス様とアナスタシア様。アナスタシア様は今日もお怒りです。
「聞いてくださいまし!あの芋娘、石が割れるほどの魅了をお兄様にかけたのですよ、ほら見てください!!」
目の前にこの国の王子様がいるだなんて思っていないであろうアナスタシア様は今日も元気に芋娘呼ばわりだった。トラント嬢……やらかしが多すぎる。
「あら、ディアン様ではありませんの」
「お邪魔しております、皇女殿下」
「それよりもあなたもあのミーシャ・トラントとかいう芋娘のやったことをごらんになって。噂を広めてやれば男爵家程度すぐに潰せるでしょう」
クリス様は嬉しそうに証拠品を見ている。
クリス様はそれを「王宮の方へ届けさせて頂いてもよろしいでしょうか?」とお預かりしていた。抜け目がない。
あまり知られてはいないけれど、この手のアイテムには術をかけた相手がわかるようになっていたりする。だってこれ他国で魔法ではなく魅了の術を使える体質だった女性が国を傾けたことへの対応策から生まれたものなので。
一部では、意図せぬ魅了によって周囲を誑かしてしまった人の救済処置にも使っているらしいよ。でも彼女に関しては完全に魔法だと思う。
「まぁ、闇の魔法使いは魅了をある程度便利に使っているところもあるから、批難もし難いがな」
「限度というものがあります!」
まさかの闇の魔法使いお二人の発言に固まっていると、クリス様は「こういうことですよ」と微笑んだ。
「ぐ、具体的にはどういう……?」
「魅了か?そうだな……相手を確実に従わせる程度のものは禁術とされるからな。私と話していると気分が良い、一緒にいると魅力的に感じる程度は使うな」
「王族には便利な力ですわ」
「浄化もできる故、神秘的な印象も与えられるしな。魅了なんて面倒な使い方ができる人間も限られるのもありがたい。おかげで完全には封じられずに済む」
まーじーでー?
予想外に便利に使っていらっしゃった。
「そういえば、光の魔法はどういった使い方をしておられるのですか?」
「……それは通常とは違う使い方という意味でしょうか?」
「あるのですか!」
嬉しそうに言う彼女だけれど、期待に応えられるかは分からない。
「あまり使うことはありませんが、おまじないでちょっとした不幸を呼ぶことなら……」
原理は簡単である。要するに……。
「他人の幸運をちょっぴり吸うのです」
光の魔法は確かにその名のように癒しだとか守りだとかに特化しているし、普通は幸運を分け与えるもの……なのだけれど、一方でそれを吸うこともできる。
「呪いのようですわね」
「これもやりすぎると禁術にあたりますし、状態異常防止アイテムも割れますわ」
「本気で怖いものではありませんか」
クリス様が真顔で言った。アルス様も真顔だった。
「まぁ、幸運の受け渡しは基本的にはやらない方がいいものです。わたくしも使用したことはありませんし」
「歴史上、利用されることが多かった光の魔法使いが学んだ自己防衛術の一つでは、と当家に来ていただいておりました先生が言っておられました」
幸運を全部吸い取られた人って悲惨な最後を遂げるらしいし、そんな怖いことをしたくないのでした。
「ちびが平和主義で良かった」
「アルス殿下、それならいい加減にわたくしをちびというのはやめてくださいまし」
私はペットですか。
なお、トラント嬢はこの件が決定打となって牢へ連行されました。裏に誰かいないかだとか聞き出すんだって。
クリス様いわく「私がヒロインなのにとかよく分からないことを叫んでいるよ」とのことだけど、ヒロインはあなたでなくお話しする妖精さんを連れた伯爵家のミーシャさんです。名前が変に一緒だったから勘違いしたのかな?容姿似せてたし。
ところで、ミーシャさん戦えるお婿さん探してるって本当ですか?