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噂の姫君(side クリストファー)



侯爵家の御令嬢二人が熱心に一人の御令嬢の悪い噂を話して回っていた。それを放っておくわけにもいかず、とりあえず話は聞いておいた。


「ギルバードの娘なら、父親と兄に泣きつくだけで王家に取り入れようことは阿呆でもわかるでしょうに……」


母上は辛辣だった。

実際、グレイヴ公爵家の力は無視できないしそろそろ取り込んでおきたいのも確かだ。王太子であるクラウス兄上が御令嬢に惚れたこともあるし、向こうから言ってくれるならむしろラッキーですらある。


「王家ではなく、ギルバードが婚約を敬遠しているというに……トーラス公爵家もなぜかフィーネ嬢を着せ替え人形として溺愛しているというし、グリンディアとラドクリフの小娘は見る目がないわ」

「小娘」


母上は、この国に四つある公爵家……ネフィリウム家の出身だ。侯爵家の御令嬢など母上にとっては小娘なのかもしれない。


「陛下と違って、クラウスは好きになる女の身分を間違えなかったのが救いです」


陛下……父の醜聞は今の貴族社会に広く知られてしまっている、らしい。

前王の息子が父だけでなければ廃嫡されていただろう。その件もあって、母上は息子が三人いる事実に多少安心しているところがある。

兄上だけでなく、僕たちにも同様の教育をさせているところに最後まで信用しきれていない母の気持ちが表れている様だ。


「まぁ、ソフィアは息子さえ産まなければまともな女性でしたから、どこぞの国よりはマシというものですが」

「南のアゼリアですか」

「ええ。あちらの国では毒婦が王妃になどなって目も当てられないことになっているでしょう?」


あんな父でも愛しているらしい母上は、過去何度かソフィア様とリオンハルト兄上へと暗殺者を送っていたほどには過激だ。リオンハルト兄上自身が学院卒業をもって継承権を放棄し、臣籍降下すると宣言してからようやく落ち着いた。

父を信用できなかったのだろう。主に好きな女の子どもに跡を継がせたいなどと言い出すことを危惧していた。


「それを考えても公爵家の、しかも優秀と名高いギルバードと雷のディアナの娘です。必ず夫の助けとなるでしょう」


楽しそうに言う母上。

まぁ、身分や能力だけでなくクラウス兄上にして「妖精のような愛らしい姫君」だということだし、容姿も整っているのだろうが。


しかし片方は「王家に取り入ろうとしている」といい、片方は「拒否されている」という。……前者は間違いだった場合、どうなるのかを考えているのだろうか。


そんなことを考えていただけなのに、陛下から「正体がバレないように学院に通え」なんて無茶振りをされて、拒否する時間を与えられぬ間に女装までさせられて、学院に放り込まれた。

そこで寮で同室となった彼女は、まさかの兄達の思い人だった。


その彼女のことを聞かれたので、素直な感想を述べた。


「小さいな」

「噂はどうしました」


一応は噂の究明とやらで学院に通わされているが、彼女自身のことを聞かれてもそれくらいしか言うことはない。印象を聞かれても本当にそれしかない。僕は男にしては小柄だと思っていたら、彼女はそれ以上に小さかった。


「あれはそう悪いことをできる性質の人間ではなさそうだぞ」

「では、あのお嬢様方が嘘を吐いていると?」

「そちらの方がまだ信用できるな」


王家から付けられた……こちらも女装させられている男にそう告げる。こいつまで女装することはなかっただろうに。どうせ使用人用の寮へ住むのだから。

趣味なのか?


「他には何かありませんか?」

「クラスメイトに彼女に対してライバル心剥き出しの男がいてな。図書室が利用できないと愚痴を言っていたので、個室を貸し切ればいいと唆しておいた」

「……クリストファー様」


結果的に自分より低い身分の者を下に見ているなんて噂も出ているが、本人も開き直っているようだし別に構わないだろう。

実際さっきグロースに文句を言われて「持って生まれた身分も才能でしてよ」と突っ撥ねていた。


「僕がここまで来ることになるのは予定外だったけど、王家の影が学院に入り込んでいることくらい予想がつきそうなのになんで色々やらかす連中がいるかな」

「そうですね。親の力でなんとでもなるとお考えの方と、それ自体考えておられないおめでたい方がいらっしゃるのでは?」


そうかもしれない。


その後も彼女を見ていても、特に問題のある行動は見られない。精々、寮で「セーラ様とミーシャさんとレティお姉様以外のお友達が増えない……どうして……」と嘆いて妖精に慰められている様子を見るくらいだ。

どうして、って言われてもトラント男爵令嬢が下位貴族に、君の天敵が上位貴族に悪評を流しているからだよ。最近では「あれ?ただの小動物では?」となってきているが。噛みつかれると怪我ではすまない小動物だけどな。


そして、今日。

なぜか現れた魔物の前に彼女は真先に向かって結界を張る。公爵家の令嬢が自分達を助けたという現実に、多くの生徒は噂が嘘であることを察した。

何せ、号泣しながら身内の怪我を治した彼女に、その後で治癒をかけてもらった生徒や騎士もいる。


帰って着替えているところを完全にうっかりカーテンを閉め忘れて見つかってしまったが、彼女は責任を取れだとか媚びを売るではなく「お嫁に行けない」などと言い出した。


「僕だってバレて変態の汚名を着たいわけじゃない。黙ってこのままでいてくれたらいいよ、フィーネ」

「そ、そんなぁ……殿下、お考え直しくださいませ!」

「僕も仕事がまだ終わっていないんだ。困るんだよね、追い出されるのも」

「使用人有りの大きな部屋に移るとかあるではありませんか……」

「僕としては、バレたらおそらく君が僕のお嫁さんになるだけの話だし」


真っ青な顔の噂の姫君は膝を抱えていじけ出した。小さく「助けてお父様……」と嘆いている。口癖なの?


そういえば、公爵が末娘に甘い理由って確か、末娘だけが「大きくなったらお父様のお嫁さんになる!」をしてくれたからだなんて母上が言っていた気がする。


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