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魔物



獣の唸るような音が聞こえた。風の魔法を使った索敵でクリスティナ様が「魔物です!」と校庭の向こうにある森を指さした。


リオン様がここにいない以上……おそらくここで一番の光魔法を使えるのは私だろうと判断して、向かってくる魔物たちから生徒たちを遮るように結界を張った。


「フィン、どれくらいもつ」

「どれくらい……出てくるのがずっとこの程度でしたら一日くらいはいけますが……S級が出てくるようでしたら30分もつかどうかくらいですわね」


なぜ急に魔物が出てきたのか、そんなことはわからないけれど。

王都には元々、魔物は少ない。そのように騎士なども頑張っているし、実際この辺りには大きな魔物も、それが出てくるダンジョンもないはずだ。おかしい。


おかしいのはわかるんだけど、今現在どうこうできる問題でもない。

とりあえず、レオ先生の指揮の元にユウとアルス様、アナスタシア様を含む多くの生徒が結界から出て助けを呼びに向かった。……生徒の張る結界が壊れて、他国の王族に何かあると国際問題になるし。


アルお兄様を含めた魔物の討伐経験のある何名かが結界の内側に残ってくれている。

魔法で弱い魔物を片付けてくれているので、だいぶ数が減って「なんとかなるかも?」なんて思った瞬間……「ソレ」は現れた。


大きな猪のようなソレは、大きく嘶き突進してくる。


「っ……、ベル!!」


名前を呼んで、彼女からルミナス様より賜った身の丈よりも大きい魔導具の杖を受け取り、魔力をより強い結界へと変換する。

それと同時に、風と闇の魔法らしきものが魔物へ向かっていった……が弾かれる。結界内部からではない魔法の反応は少し離れた倉庫からで、猪の魔物はそちらへ方向を変えた。


そこにいたのはエメルダと、ミーシャ・トラント男爵令嬢。突っ込んでいく魔物を見て驚いたように悲鳴を上げる。

アルお兄様が氷柱を落として、バベルとアルお兄様の侍従であるレイが舌打ちをして走っていく。バベルはともかく品行方正なレイが舌打ちとは余程のことだと思う。

氷柱を砕いて先に進もうとした猪を先ほどよりも強い闇魔法の弾丸が弾き飛ばした。

戻ってくるバベルはエメルダとトラント嬢を抱え、レイはミーシャさんを抱えていた。


「シュトレーゼ嬢……?」

「事情は後で、説明させて頂いても……?」


なぜか傷だらけの彼女と、エメルダたちを睨み付けるミーシャさんの妖精。なんとなくだけれど何が起こったかわかった気がした。


「グレイヴ家の使用人は程度が低いのですね!わたくしにこんな運び方をするなんて!」

「イベントではあれで倒せたはずよ!アンタが何かやったんでしょ!?」


なぜか私の髪を引っ張ったり、掴みかかってきた彼女たちをアルお兄様が引き剥がした。


「いい加減にしろ!我が家の使用人の質が悪いのではない、おまえ達の程度が低いのだ。フィンが何かをしただと……?何も出なかった場合は相応の覚悟があるのだろうな!?」


アルお兄様が声を荒げることはそう多くはない。この環境で何も考えずに言ったであろう言葉が地雷になったのだと思う。

でもエメルダはメンタルが異常に強いので「そうよ、あなたがわたくしに祝福をかければわたくしがこの魔物を倒すことだってできるはずだわ」とか言い出した。……バベルの「処す?」発言に頷かなかったのちょっと後悔してきたぞぅ……?私をそういう後々後悔しそうな思考へと誘導するのやめてほしい!


「あ、若様がキレた」


バベルのその発言にうっかり「ふえ……?」と間抜けな声を出した途端にアルお兄様は剣の柄で二人の意識を飛ばした。冷気からして首が飛ばなかっただけ良心的かもしれない。


「レイ、運んでおけ。懲罰室だ」


底冷えするような声を聞いてちょっと震えてしまった。いい声なのも相俟って余計に怖い。


アルお兄様が隣に立って、片手を差し出す。


「結界の展開で負担をかけている中すまない。私に祝福をかけてくれ」

「まさか、お兄様……戦うおつもりですか!?」

「バベルを借りるぞ。心配するな。私とて領で魔物が出れば父上たちと共に戦う身だ」


そりゃそうですけども!その時は領地の騎士さんとかが助けてくれるじゃないですか!


「お嬢様、大丈夫ですよ。若様はお強いですし、私もそれなりには戦えます」

「おまえからもらった妖精石もある。無理はせん」


宥めるように言う二人に、それならばと祝福をかける。

実際、何度も体当たりされては結界も助けが来るまで持つか微妙だ。

ベルと力を合わせた魔法をかけて、私は二人を送り出した。


通報で王国騎士が到着したのは、その15分後。

それまでの足止めを見事に成した二人の怪我に、私が二人が慌てるほど泣き喚くのはそこからさらに15分後の話だった。

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