魔法の実技授業
何もやっていないのに悪役令嬢だと言われていることが発覚した。世の悪役令嬢も意外とこんなものだったのかもしれない。世間は厳しい。
そんなことを思いながらも今日は午後から魔法の実技である。油断していると思わぬ失敗をするから、気をつけなければと前を向いた。
二年との合同授業なので、ローズお姉様とヒューお兄様が同じタイミングで手を振ってきた。振り返した。
Sクラスは合同での実技授業が多い。らしい。
去年のヒューお兄様は疲れた顔で理由を担当教師に聞いてきていた。
「こんにちは、皆さん。二年Sクラス担任でSクラス全体の魔法実技を担当しているレオナールです。気軽にレオ先生とでも呼んでね?さて、なぜ合同なのか、と良く暇な生徒に聞かれるから答えておくね。それは……」
予想のできる答えに頭が痛くなってきた。周りの生徒はどんなすごい理由があるのかと息を飲む。
「それは、僕の貴重な研究時間が減るからだよ」
この男、どこまでも利己的だった。
「そもそも、研究のために教員になったというのに、担任まで任されてしまったからね。どうせ魔力の量と妖精との相性で出来ることなんてほとんど決まっているようなものだから、Sクラスのみんなは余程のことがない限りは各学年の組み合わせをローテーションで回して練習させた方が、勝手に上の学年の生徒から学んでくれて効率が良い。そして僕は時短が出来る」
「楽をするためというのであれば、教員に向かないんじゃないか」
グロース様が皮肉を言うと、レオお兄様……レオ先生は凶悪な笑みを浮かべた。
表情がすでに「それが?」言っている。
「それでも僕は陛下に任じられてここにいる。認められている以上は黙っていることだ。グロース、もう少し考えて発言をしないと引き摺り落とされるだけだよ?」
愉しそうにしている先生の顔を見て、少し後退るところだった。少し、足が地面を擦る音が聞こえて、ちらりとそちらを見るとミーシャさんが顔を青くしていた。気持ちはわかる。
そういえば、バベルから聞いたんだけどヒューお兄様とローズお姉様の学年にもう一人ミーシャさんがいるらしい。そっちのミーシャはやべー人だから近づかないようにって注意された。一つ上の学年、魔境なの?
そんな魔境の二年生との実技演習はクラウス殿下が炎の魔法を使えば黄色い悲鳴が上がり、リオン様がそれを結界で防げばまた悲鳴が上がり、ヒューお兄様が雷を落としても悲鳴が上がり、クロイツお兄様が浄化をして見せればまた悲鳴が上がるすごい空間だった。アイドルかよ。
ローズお姉様とミーシャさんが魔法を使ったときは男達の魂の篭った掛け声が聞こえた。アイドルなの?美少女は正義ですね、わかります。
殿下sは模擬戦闘をさせられていたけれど、他は後輩に見せるのがメインとなっていた。一年は流石に模擬戦はさせられない。
精々的を用意されて「これに攻撃魔法を当てるように」くらいのものだ。
光の魔法使いはどうするのって?他の人と組んで祝福を与えるか、結界魔法を見てもらうか、治癒魔法を見てもらうかの三択である。私はレオ先生に祝福が使えるのがとうの昔にバレているので、セーラと組んだ。
祝福……それは、他者の魔法の効果を上げる魔法だ。
わかりますか?私には攻撃の手が無いのです。自衛とはひたすら結界で身を守ることである。
これも重要なものではあるけど、私も火とか水操って見たかった。
家族を見ていると厨二病心が疼いてしまう……反面、特に火の属性だったりしたら100%「くっ……疼く、邪龍を封じしこの左腕が……!」とかを例のポーズで言っていた気がするのでこれで良かった気もする。
「セーラ!気をつけるんだぞ!」
じゃあ、やりますか!と手を繋いだところセーラ兄から熱い声援が届いた。「頑張れ!」と叫ぶホーンス様に「お兄様は黙っていてください!!」とセーラは真っ赤な顔で叫び返した。
セーラは頬を膨らませて的に向き直る。
「もう!もう!お兄様ったら!!」
この歳になると肉親からの応援は少し気恥ずかしいものだったりするからね。
けど仲が良いのは素敵だと思います。
手を繋いで、彼女の魔力を感じる。ベルに頼るとエグい効果が出るので、自分の魔力だけで行使しようと思うとタイミングを図るのもそれなりに難しい。
「あなたに光の祝福を」
そう言うと、キラキラとした黄金色の光が彼女を包む。
セーラが深く、息を吐いて火を的に向けるとそれは金色を纏う大きな炎となり的を燃やした。
成功したことを喜び合うと、くすくすと笑う声が聞こえた。誰か見てやろうと思ったらバベルが呼ぶので、彼の方を見た。
「わざわざ羽虫を気にかける必要はございませんよ」
どこぞのご令嬢を羽虫……。
私の平民出身執事メンタル強すぎでは?
前年度のヒュバードお兄様はレオ先生に
「え?合同授業ばかりだって?時短だよ時短。僕、生徒に興味が薄いから集中力もたないしねぇ」
と言われています。