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我が主人の周囲は物騒である(side バベル)



「なんで私が悪役令嬢だなんて呼ばれているのー!?」


お嬢様、淑女は叫ばないものですよ。

この九年、必死に被ってきたお嬢様の仮面が剥がれた瞬間だった。




グレイヴ公爵家の影は優秀なので、三日のうちに結果を持ってきた。それをお嬢様は若様に泣きついて一緒に見てもらうという判断をした。

いわく、「アルお兄様の方がよりお父様に近い考えをご教授くださるはずです」だそうだ。今日もお嬢様の旦那様万能説への信仰は厚い。


その影よりもたらされた情報で、少し錯乱されたお嬢様は若様に「淑女が叫ぶものではないよ」と諭された。お嬢様は素直に頷いて、「申し訳ございませんでした」と顔を伏せた。


「なぜフィンの話が他所で一人歩きをしているのか……。まぁ、気をつけるべき人物も予想通りではあるがわかったことだし何かをやらかすようなら潰すか」

「九年も前のパーティの逆恨みだとか、アルお兄様との縁談を潰したとか普通に自業自得ではありませんの。それを恨まれたところで……」


グリンディア侯爵家の御令嬢は、以前若様に懸想していた。だが……彼女自身が若様に何か言ったらしいこと、お嬢様との諍いを起こしたことから、旦那様が婚約を迫ってきた侯爵家を足蹴にしたのだ。婚約の代わりに貴重な資源の一部の提供なども提示されていたようだが、若様のあまりの嫌がり様とお嬢様の安全を考えたらむしろ受けるのは負担が大きいと考えたようだ。

お嬢様が家族を心から思っているのと同様に、家族もお嬢様が大好きである。


「フィーネ、おまえが優しい子だと私たちは知っている。だけど、これが他の御令嬢や周りの人に向けられればどうなるか、わかるな?」

「はい、わかっておりますわ。お兄様」

「ならば構わない。まだ何かしてくるようであればおまえの望むように処分しよう」


私に視線を向ける若様に頭を下げる。この方は、殊更に末の姫君らしく愛情を一身に受けて育った妹を大事にしておられる。だから、お嬢様が「あの人を殺して」と泣きつけばそうするだろう。まぁ、お嬢様は平和主義なのでそんなことは言わないだろうが。

王太子殿下からの求婚も若様が一番に反対している。


「ふふ、処分だなんて。でも、アルお兄様がそう言ってくださるのは心強いですわ」


お嬢様は冗談だと思っている。否定せず、その怜悧な美貌を緩ませて微笑む若様は一枚の絵のようだ。そんなだから妹に恋焦がれているのでは、なんて旦那様が焦るのである。

……実際は完全なるシスコン以上のものではない。リリアナお嬢様が嫁ぐ前に「いくら顔が良くとも……いいえ、顔が良いからこそ無愛想・仕事好き・シスコンの三重苦では嫁が苦労します。直しなさい」と言っていた。元々、旦那様の資質を受け継いでいるからか、家族には甘いのだ。


そして、お嬢様を寮に送り届けるように言われ、それが終わり次第に若様が借りたサロンの個室の扉を叩く。名を名乗ると「入れ」と声がして入室する。

入っている人間達を見て帰りたくなった。


「フィーネに害を及ぼす者たちへの対策会議だと言ったらリオンハルト殿下がついてきてしまって……」

「それを私がクラウスに言ったら、彼も来たいと言ってくれましたので」

「そうしたら護衛とか言ってリカルドとケビンも付いてきた」


ヒュバード様から漏れたようだった。ヒュバード様とリオンハルト殿下を睨むリカルド様以外は穏やかな雰囲気だ。


「俺はレオ先生から聞いたよ」


苦笑する東の国の王太子はまさかの人物に聞いていた。

ロザリア様はシレッとクロイツ様を巻き込んで微笑んでいた。

どうなっているんだろう。


「それで、資料は行き渡ったかな?」


ニコニコと笑いながらレオナールは尋ねる。


レオナール・グレイヴは一族でも異質と呼ばれる人物である。

彼は先代が持つ爵位の一つ、伯爵家を継いだ旦那様の兄弟の子息。彼の家自体は弟が継いでいる。レオナールという人物が家を継ぐには不適格と見做されたのもあるが、彼自身が研究にその全てをかけることを望んだというのも大きい。

彼はその望みを叶えるために、その若さをもって公爵家の暗部の長に就いた……お嬢様風にいうと「ヤバい」人物である。なお、彼もたまに私を人造魔王とやらにしようとするところを除くとお嬢様を割と大事にしている人物だ。


「それで、アルヴィン。おまえはなぜこんな重要な会議に私を呼ばなかった?」

「王太子殿下におかれましては身内ではございませんので」

「はは、貴様というやつは……私の温厚さに感謝しろよ」

「温厚なのではなく打算ありきでしょうが」


現国王が王太子の時に婚約破棄騒動や、伯爵令嬢を手籠にした件もあり旦那様と若様の信頼度が低い王家だった。

そこに二人の王子がお嬢様に惚れたとか言い出したものだからグレイヴ公爵家は困っている。


「私たちが警戒されるのは致し方ないことでしょう?何せ父上が……ね」

「リオン、そうは言っても私の母とソフィア殿も被害者だ」

「ええ、母たちは被害者です。ですが、私たちは同時に父の子でもあります。ですから……愚か者が近づいてくるのが止まらないのですよ」


彼らは彼らで苦労をしているのだ。

王が伯爵令嬢に勝手に懸想して、当時婚約者だった妃殿下に婚約破棄をしたこともあって、彼らに気に入られれば王子の妻になれるなどと思う家は少なくない。

……王太子殿下に関してはうちのお嬢様に出会わなければ、どこかで引っかかっていたかもしれないと旦那様が苦い表情をしていたが。


「そうか。大変だな、リディア王国の王子は」

「和国では側室が認められていますものね?」

「ああ。王族は生まれ難い特性があるからな。子が生まれるまで一年毎に増やすのが決まりになっている。結局、母上が一番に世継ぎを産んだのだが」


三年前、同母の弟君が生まれてから城内を「掃除」したという王太子は困ったように笑う。


「子が生まれるのと正妃としての資格、その違いがわからぬ者を置いておくことは出来なかっただけだよ」


なんて穏やかに言う彼だが、お嬢様にまるで恋文のような手紙を送っていることはすでに若様たちは知っている。


さて、若様たちはこのお嬢様関連で相手を恐怖のどん底に突き落としそうな連中とその仲間を集めてどうするつもりだろうか。

リストに載る者たちに祈ってやるつもりはないが、敵に回った人間を少し哀れには感じた。

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