生徒会
生徒会……現代日本では本来そんなに大きな権力とかない組織だけれどここでは違う。割と大きな権利と義務を持っている。
まぁ、学力で決まるのと多くは今まで良い家庭教師つけてきた上位貴族がいい点を取っているので、大抵は偉い家の人が生徒会役員になる。
が、それでも学力が上回る身分がそう高くない人たちもいるにいる。そういった人たちにとっても文官への登竜門となったりするのでみんな必死に勉強している。
……それを考えるとお父様たちの世代と私たちの世代本当にかわいそう。
特に今は王子様が隠しキャラ含めて五人に公爵家が五人……。
この段階でキツい。
ちなみにだけれど。
三年の役員はアルお兄様と北に隣接する大国セレスティアの皇太子アルス様、まさかの東の国和国の王太子優斗様。
二年の役員はリオン様、クラウス殿下、ヒューお兄様。
……ローズお姉様に聞くところによると、ヒューお兄様はリカルド様に2点差で学力検査の点数を上回って生徒会入りしたため、家の件も含めて目の敵にされているそうです。個人的にはリオン様と一緒にならなくてよかったねとしか言いようがない。
そして、今年度一年のTOP3は私、クリスティナ様、そしてアレン・グロース様だ。
アレン様は攻略対象である。グロース家は商人から貴族になった家で、グロース商会は王族も御用達の大きな商会だ。そして、彼はその家の長男なのだが……商売の才能はあまりない、と父である商会長に判断されて、勉学に精を出す。家はそちら方面で優秀な次男と三男が関わることになっており、彼はそれにコンプレックスを抱いている、という設定だ。
頭が良いのと商売の才能は別だというのは結構残酷だなって思った。
どうしようかなと思ったのだけれど、お兄様二人が「エメルダの件があるから入っておきなさい」と言っていたから入ろうと思う。クリスティナ様も入るらしいので女子二人だ。やったー女子ぼっちにはならない!
「公爵家という恵まれた環境で生きてきたからっていい気にならないでくださいね?」
「……はい?」
「すぐに首席の座はいただきます。絶対に」
とか思いながら一年の顔合わせしていたらそんなことをグロース様に言われてしまった。そして言いたいことだけ言って去るんじゃない。
え……知らないよ……。
バベルが「処します?」と聞いてきたので、首を横に振っといた。
「自分の実力で、わたくしを引きずり落とすと彼は言っているのです。彼の努力がどれほどか見せてもらいましょう」
「あら、フィーネ様は首位を守り続ける自信がおありなのですね」
ふふ、と微笑むクリスティナ様に「そういうわけではありませんけれど」と前置きをする。
「わたくし、すぐに引きずり落とされるような可愛らしい勉学など、ここ10年近くさせていただいていませんわよ」
分刻みのスケジュール、常に見られている礼儀作法、何故か求められるアルお兄様と同レベルの勉学。お父様にも徹底的に扱かれた。魔法だって必死に磨けと言われて努力した。
「……わたくしの努力を恵まれた環境と片付けられるのも、少々癪ですし」
お父様とお母様の鬼のような厳しさを知らないから……いや、これも恵まれた環境に入るのかしら。
でも甘やかしはされなかったよ……末っ子もっと甘やかされ……我儘になっちゃうかぁ……ダメかぁ……。
「お嬢様、気が抜けませんね」
「わたくしもそろそろ気を抜きたかったのですが」
よく考えたら今私、お家の影とバベルついてるからこれも全部お父様とお母様に連絡行くじゃん。
えっ、これ必死にならないと怒られちゃう。
「……そうですね。おそらく成績次第では長期休暇中も今まで以上に分刻みの超過密スケジュールになるかと」
泣いてもゴネても絶対に覆らない両親の教育方針は恐怖である。
「……意外と苦労していらっしゃるのですか?」
「むしろ、大きな家の娘であるからこそわたくしのような末娘でもそうは見えぬように努力することを強いられるものです」
ローズお姉様もレティシア様もある程度「そうあるべし」と教育されている。同じ年代に王子がいるからこそもあるとは思うけれど。
公爵家の娘と生まれた以上は、身分に相応しい行動をとり、全生徒の規範となるように振る舞わねばならない。
私、なぜあそこまで冷たい対応を取られなくてはいけなかったのかな。私だって遊びたいの我慢してここにいるのに。
「……やはり処断させますか?」
「いりません」
結局、全ての人に好かれる人間なんていないんだから、放って置けばいいのよね。私だって嫌われたいわけじゃないけど、嫌われたからって誰かの人生を潰すようなことをしてはいけないのだ。
「おまえはわたくしを宥める立場なのではなくて?わたくしを暴君にでもするつもりかしら……」
「寧ろそうあっていただければ気が楽なのですが。お嬢様はもう少しくらい苛烈になっていただいても良いくらいです」
「似合わないことをさせないでちょうだい……」
胃薬を常用はいやよ!
「……フィーネ様は聞いていたよりも、懐の深い方でいらっしゃいますね」
「誰から何を聞いたのかは知りませんが、わたくしはまだデビュタントも済んでいない身です。噂されるようなことはないと思うのですが……」
パーティーやお茶会だって明らかに帰れっていうような嫌がらせがあるからお母様が懇意にしているところと王家関連しか出てないし、そんな粗相したつもりもないんだけど。噂流れようがある?デビュタントだって今年の夏予定だし。
王家でのパーティーやお茶会で何かあったかというとそれも悩みどころだ。
だって、エメルダだけがああいう態度というわけではないし、行くたびにドレスや髪飾りを台無しにされたくないからご挨拶だけして帰らされるようになっている。
侯爵家の数人の御令嬢もだけれど、歴史が長かったり財政的に明るい伯爵家の連中も私を排除しようと仕掛けてくる。ああいうところで飲み食いは厳禁だし、お友だちなんてできないし、両親や兄姉と離れることは何かやらかされることを指す。
何度か部屋に連れ込まれそうになったり、物陰に押し込められそうになったけど、結界で弾き飛ばしてきた。
……お蔭様で結界のレベルが非常に上がってしまった。
まぁ、何もできないだろうとタカを括っていたようなのでお父様に泣きついて置いた。降格した家が何個かあるよ。取り潰しになった家もある。流石に取り潰しが出たあたりでみんな近づいて来なくなったな。
これか?
クリスティナ様と別れて図書室へ向かう途中に、先ほどの話が引っかかって立ち止まる。
「バベル」
「なんでしょうか」
「わたくし、やはり誰かの悪意で、見知らぬ場所で貶められているのかしら」
「そう取れますね」
徹底的に調べてもらうべきかもしれない。
……同室のクリスティナ様を疑うのは心苦しいけれど、しばらくは自分で結界を張って休む方が安全ね。