決まった婚姻
そのままフィーネは横抱きにされて助け出された。目が点である。
抱き上げている本人は非常に楽しそうでしかも位が非常に高い青年であるため、レイは胃の辺りを摩った。
この役目は自分でなくバベルのはずだけどなぁ、と思いながらどこか遠くを見るような目で掻っ攫われるのだけ阻止した。
勝手に連れていかれると首どころか遺体すら無くなるのでやめて欲しいと訴えるとフィーネが覚醒して「お家帰りたいです」と押し切った。
とはいえ、フィーネも助けてもらったという事もあって「お礼をさせて頂きとうございます」と言っており、途中で合流したアルヴィンはレイと同じような仕草で胃の辺りを摩った。妹が他国の次代に借りを作っただけで頭が痛い。国に連れていかれる可能性が高いので。
無事に家に辿り着いたフィーネは家が襲われたと聞いて戻ってきたギルバートによって別邸へと運ばれた。
そこで、今回の一連の出来事と彼女の身体のことを考えてギルバートは一つの判断を下す。
それは末娘を「和国に輿入れさせる」という事だった。
そもそも、レオナールの研究のおかげでフィーネを長生きさせる方法を知ってから考えていたことではある。けれど親元から離すには心配事の多い娘であったので渋っていた。
けれど、優斗は諦めるつもりはないし、なんなら執念を感じる。和国に行けばそれなりに身体は健康になる可能性が高いし、優斗は確実に愛娘を害そうとする人間を許さないだろう。
「なんだか、ギルと似ているわよねぇ、ユート殿下」
しみじみと言う妻にギルバートは困った顔をした。自分はそんなに執着が激しいだろうか、とか、そこまで愛に生きていただろうか、とか考えた。そんなに似ていないと思うが、と妻に言った彼はなんとも言えない笑顔で圧された。
そんな考えもあってか、彼は翌日にフィーネへとその件を告げる予定だった。
そう、告げる予定だった。
「この国の陛下が願いを叶えてくれるというので、君を望んだ。式は先になるが君は俺の妻だ」
翌日、朝早くから優斗が家に来ると言うので準備をして出迎えると、「褒めて欲しい!」と言わんばかりの笑顔で彼はそう言った。
たしかに、隣国の王子が惚れた女の子のためにこの国にいた世界の敵を倒してくれたのだ。願いは叶えて然るべきだろう。だが、早すぎる。せめて国からの命令が届いてからにしてくれとギルバートは眉間を揉んだ。
優斗はしっかり書状を持参していた。
同封されていた現王からの手紙には「勢いに負けた」と言うようなことが遠回しに書いてある。
フィーネは目を点にして抱き上げられている。フィーネを抱き上げてくるくると回った彼は、ギルバートに「はしゃいでしまってすまない」と告げる。
「それで、我が国への移住準備にはどれくらい時間がかかるだろうか?」
待ちきれない、と言うような顔の彼だが、フィーネはこれでも公爵令嬢である。
嫁ぐにしても、彼の国で着るドレスや装飾品、文化の再履修など彼女が恥をかかないように準備すべきことがたくさんある。
「そうですね。一年ほど期間を設けましょう。その間に準備させます」
ディアナはそう言って娘の顔を見る。
そして母の顔を見たフィーネは察した。
(あ。これめちゃくちゃ大変なヤツだ)
一年でも普通に時間は足りない。
そんな女性陣の反応に首を傾げながら、「俺はこのまま来てもらった方がいいんだが」と言うが、通常そんなことできるわけがない。優斗が早く連れ帰りたいという意思を見せれば見せるほどフィーネが追い込まれる。
頭が痛いという顔をするフィーネはギルバートによく似ていた。
「ユート殿下」
「なんだ、俺の可愛い人」
「なぜそんなに急がれるのです?」
「治療は早い方が君のためになるだろう?」
なるほど、と頷いたフィーネは国王からの手紙に目を通して「なんかもう、婚姻しちゃってるみたいだしなぁ」と思い苦笑した。
「お父様、お母様。わたくし、ユート殿下と共にこのまま和国へ向かいますわ」
覚悟を決めたフィーネはそう言って笑みを作って見せた。強引に連れ去られると言うのはなんだかロマンスもののヒロインのようだ、なんて思っていると優斗に抱きしめられていた。
「持ち上げてくるくる回るのはやめてくださいまし!」
この扱いは本当に女性としての好きなのか、と少し疑いながらもフィーネは叫んだ。




