祝福はその身に宿りて
迫り来る炎を薙ぎ、彼は不快そうに発生源を見た。忌々しげにグノーシアを見るその目はフィーネを見つめる瞳とは全く違う。
フィーネは奥の手は消えるし、優斗はやたらめった強いしで困惑しきりである。
そんな彼女に「君はそこで見ているといい」と慈愛に満ちた顔で微笑んだ彼の周囲に音を立てて木が生えてきた。
彼の思う通りに育つそれはグノーシアの足元からも伸びる。グノーシアは舌打ちしてそれを避けると、二人へと飛びかかった。
その剣を優斗が受け止めれば、パキリと音が鳴った。優斗自身も想定外だったのか少し意外そうな顔をしている。
そして凶悪な顔で笑った。
(あ。なんだかこれ、勝ち確の予感しない?)
そういえばあの凶悪なまでのグノーシアを滅ぼすための力は優斗の刀に吸い込まれている。つまりは彼の魔道具が直接強化されたということだろう。
そして、剣であればヒュバードの方が扱うのが上手いがそれが刀となればまた違う。
「こっちの剣術は叩き斬るのが主流なのか。困ったな。故郷では斬ることに特化しているものだから少し扱いが違う。慣れるまで時間がかかるな」
留学の折にそんなことを言っていた優斗であるが、その割には最初から剣術の成績は良かった。
そして、彼はフィーネに対しては優しいお兄さんであるが、他の人間に対しては塩どころか氷点下の対応をとっているので、周囲がフィーネの側にいる優斗を怖がっていたのは別の話である。
そして、今。
「殺れる」と確信した優斗は悪鬼さながらの戦いぶりでグノーシアを追い詰めていた。
「ひ……」
ふと見た瞬間にグノーシアの腕が飛んでいて声にならない悲鳴が出る。魔法で強化はされている。だけどそれってここまで効果があるものか、と杖を抱きしめるフィーネ。
「……鏡に入ってるの、フィーネの光の魔力だからユウへの祝福に変わってる」
ベルの唖然としたような呟きに、フィーネは思わずユウの放つ魔法を見つめた。たしかに塗りつぶしたようにオレンジ色が強いけれど、その周囲を金色の光が柔らかく包み込んでいるのが見えた。
「な、なんてヤツなの……!?こんなにフィーネと相性のいい魔法使いがいる!?」
妖精と魔法使いの両方が意味がわかっていないまま、優斗はグノーシアを討ち取った。
その頃にやってきた光と闇の妖精王は顔を見合わせて、それから。
「長く生きてきたけれど、こういうこともあるのねぇ」
と呟いて、二人はグノーシアの遺した身体をその残留魔力ごと消滅させた。




