転生は突然に
私はフィーネ。フィーネ・グレイヴ、3歳。公爵家の三女で末っ子。
家族構成は父と母、5歳上の姉、2歳上の兄、1歳上で双子の兄と姉、そして末っ子の私。家族はほぼ驚くような美形である。この中であえていうならば私が一番凡庸な容姿をしている。それでもお父様と同じ茶色の髪は温かな印象をくれるし、お母様と同じ色の瞳はエメラルドのようでとても綺麗だと思う。単に両親と他の姉兄が美しすぎるのだ。
それもそうだと思う。
なにせこの世界は乙女ゲーム……女性向けの恋愛シミュレーションゲーム、「フェアリー プリンセス」と似た世界なのだから。
なぜ「似た」世界だと思ったかというと単に私という異分子が入っている時点で何らかのバグが生じていると考えられるためだ。
私という異分子、というとこからも何となくだけれど想像はつくかもしれない。
私は転生者……前世の記憶を持ちながらこの世界に生まれた人間なのである。
前世は就職を控えた大学生だった。ところが卒業旅行に行った先で転んでしまった際、転落防止の柵が壊れていて山の急斜面から滑り落ちてしまったのだ。滑り落ちたところまでしか記憶にないので、おそらくは転落して即死したのだと思う。
気がつけば泣いていた。というか泣くことしかできなかった。産まれたばかりの赤ん坊だったからだ。
そこから3年、裕福らしい家に産まれたことを感謝しながら大切に育てられ、徐々に姉兄と交流をしていった結果、兄たちが攻略対象、1歳上の姉がライバル令嬢と同じ名前であること、家の爵位、この国がその舞台となるリディア王国であることから件の乙女ゲームの世界であると考えた。
そして、私のこの世界での役割は、というと……。
「ない」のだ。
私に役割は「ない」。
つまり私は「モブ」なのである。
かといって存在しない子に転生したわけではない。
兄たちも姉もゲーム上でヒロインに対して、ヒロインの一つ下の学年に妹がいるということは匂わせていた。しかし、出番はない。
そういう存在なので私がやることといえば、家族がずっと仲良くいられるように考えることと、なるべくお家の役に立つお嫁入り先を見つけること、そのためにたくさんお勉強をすることの3つである。
姉に関してはライバル令嬢という立ち位置だけれど心配することはない。公爵家自慢の美姫である。例えヒロインが現れたとしても、もし攻略対象がヒロインを選んだとしても、お父様がお姉様に傷がつくような結果にさせるはずがない。
そしてこのゲームにデッドエンドがあるのはヒロインと敵だけです。
キラキラと目の前を楽しそうに飛び回る金色の妖精に手を伸ばすと、お母様に「フィーネ」と呼ばれた。舌ったらずな声で「はい、おかーさま」と応えると笑顔のお母様に抱き上げられる。
「3歳でもう妖精付きになるだなんて、もしかしたらあなたは妖精に愛されているのかもしれないわね。」
「そうだな、ディアナ。光属性の魔力を持った子どもは妖精に愛されやすいと聞く。」
いつのまにかお母様の隣に寄り添うお父様が慈愛に満ちた声でそう言う。ディアナはお母様の名前だ。モブには相応しくない感じの能力に聞こえるけれどそうでもない。
他のゲームでは光属性というと特別なイメージなのかもしれないけれど、この世界でいうと能力者は比較的少ない方だけれどそれなりに存在するのだ。
この世界には魔法がある。属性は火・水・風・土・光・闇の6属性。ほとんどの人は火・水・風・土の4大属性を持つ。そしてこれらの力がポピュラーかつ就職に便利なのである。光・闇は4大属性よりは少ないし、なんというか少しわかりにくい属性であったりもする。
とはいえ役に立たない訳ではない。
光属性は一般的に癒しと防御の能力に優れ、闇属性は占いと呪術に優れているとされる。これらも需要がないわけではない。医師などはほとんどが光属性の魔力持ちだし、神官などは闇属性の魔力持ちが多い。
妖精というのはその魔力の属性によって現れる小さな我らの友である。一人につき1匹妖精が付く。妖精が力を貸してくれることで私たち人間はより強い魔法を使うことができたりもする。
とはいえ、妖精にも気分や好みがあったりする。人によっては近くを飛んでいるだけで助けてはもらえない人もいるし、逆にとても好かれて必要以上に力を貸して貰える人もいる。個体によって色も形も違うけれど、私の近くにいる子は小さな女の子に羽が生えている。長女のリリアナお姉様は緑色の羽が生えた赤茶の猫だった。
妖精が近くに来るのはだいたい神殿で5歳の洗礼を受ける時だという。長男のアルヴィンお兄様は来月が洗礼となる。
とはいえ例外もある。
それが光と闇の魔力を持つ子どもだ。
要するに他の属性よりも少ないので妖精たちも選り好みせずにできるだけ早く専属を決めたがるらしい。なので、5歳の洗礼の前にほとんどの子どもには妖精がすでについている。
「光属性で公爵家の出身故に魔力量は多い。妖精も早くフィーネに会いたかったんだよ。」
「そうね、ギルバード。」
私を挟んでイチャイチャするお父様とお母様。仲良しなのはとても良いと思います。