闇夜を裂く者
優斗√
夜が近付く時間。すぐ側の森から見えた紅蓮の炎が異常を知らせる。
「アーク」
青年は自らの妖精の名前を呼ぶと、指笛を吹いて愛馬を呼んだ。
周囲にいるリディア王国のつけた護衛が慌てるように止めに走ってくるが、彼はそれを一瞥もせずにひらりと馬に飛び乗り、駆けた。
「お前の勘って何故か当たるから怖いんだけど」
アークが優斗に向かってそう言うと、彼は「そうか」とだけ告げる。その瞳は前だけを向いている。
頭の片隅で、母のために父がやってきたアレコレを思い浮かべて好きな異性に対する嗅覚は血筋だろうか、と考えた。それでも構わない。それで彼女を迎えに行けるのであれば。
優斗が失敗したと思ったことならば、彼女が帰った後にもっと本気が伝わるように公爵家へ働きかけるべきだったというところだろうか。
和国とリディア王国では王族の婚姻での繋がりはまだなかったはずだ。結束を深めるための政略結婚に持ち込むことは不可能ではなかったな、と今ならば思う。
火の見えた方へと駆けていく途中で、無くなった腕を、流血を止めるために押さえながら歩くバベルを見つけた優斗は少しだけ足を止めた。
そして、彼の腕にきつく何かの蔓が巻きついて、緊急用の火の玉が空へ上がる。
「ユート殿下…?」
どこか虚な瞳で優斗を見たが、緊急用の報せは出したと彼は先へと進む。
そして辿り着いた彼の前で6色の光が弾けた。それに取り込まれそうなフィーネに手を伸ばす。
「やめろ、フィーネ……!!」
今の彼女の魔力は鏡を作った時の膨大なものではない。そんな状態でそれを起動させてしまえば、フィーネが傷つくことが分かっていた。
必死に手を伸ばす彼の目に、追い詰められて縋りたいというようなフィーネの姿が映る。
──その瞬間、考えることをやめた。
その鏡が何かを形作る前にフィーネを抱き寄せて、自らの魔道具である刀を上空に掲げる。
刀はオレンジ色の眩い光を放ち、やがて鏡を取り込んだ。
唖然とするフィーネに優斗は笑いかける。
「そういう顔も可愛いが、後でな」
満面の笑みを見せる優斗。フィーネは自分の杖と彼を交互に見てから「何事!?」と言うような顔をする。
そんな顔をするフィーネを幸せそうに見つめる彼に黒い炎が迫った。