婚約発表
婚約期間のギルバートは厳しかった。何より愛娘のためである。
「愚王に嫁がせる娘はおりませんので」
サラリとそう言ったギルバートは父を見てきたためのものか、とクラウスはため息を吐いた。
それはそれとして、週に数度は婚約者であるフィーネとの面会が許されているので彼は良いところを見せたくて頑張った。
そしてフィーネもまた、クラウスの優しさと誠実さに惹かれていった。
そして、1年後に王位の引き継ぎの件もあり婚姻をすることと、相手がフィーネであることが発表された。城内で見た儚げな美少女がフィーネ・グレイヴであった事を知った令息は崩れ落ちた。何名かは「あんなに美人になるなら俺だって狙ったのに!!」と叫んだ。
「だからダメなんだって分からないんだなぁ」
「ヒュー様、ダメですよ。本当のことを言ったら」
妻をエスコートしながら、「そんなに顔って重要なのかい」なんて首を傾げるヒュバードはいつも通りだ。そして彼は乙女ゲームのヒロインという愛らしい令嬢を妻にしている身なので説得力は薄い。
だがヒュバードが考えるに、元からフィーネは両親それぞれの繊細な美しさを引き継いだ顔立ちをしていた。将来的に美女になるだろうという予測は外れていたが、それでも愛らしい顔立ちをしていたのでそこまで落ち込むことかと疑問に思っていた。つまり彼らに見る目がなかっただけだろう、というところに考えが至ると「やっぱりフィンの相手に彼らは不適格だったんだろう」と内心で呟く。顔立ちはそこまで大きく変わるものでもないし。
ただ、魔力による成長の阻害がなければ周囲はこんな風だったのか、と思うと姉の厳しさの理由がわかった気がした。たしかに自分であしらえなければあっという間に食われていただろう。
婚約の発表と同時にリオンハルトは王位継承権を持ったまま公爵となることも発表される。そして、本人が「誰とも婚姻をするつもりはない」とはっきりと言ったことで悲鳴が上がった。リオンハルトは今後領地を与えられ、そちらに向かう事も発表された。
「これくらいせねば、また妙な派閥を作って王位争いだのなんだの言ってくる人たちが出ますからね」
リオンハルトは後に、そう言いながら苦笑した。
その本意がどこにあったのかを知るのは、彼自身だけだろう。