その荷を背負う
クラウス√始まります。
薄暗闇に咲いた紅蓮を見て異変を感じた。
嫌な予感がした。
指揮を騎士団長に任せて愛馬を引き寄せる。アルヴィンがケビンと共に魔物を倒している姿が見えた。そして、馬を引き寄せたクラウスを見つけて眦を釣り上げた。
何か言いたげに近づいてくるアルヴィンの元に強面の男が「若様!」と慌てたように駆け込んでくる。
その男は仇敵グノーシアがフィーネを狙って追っていることを伝える。
そして、クラウスはそのことであの赤い炎の意味を察し、気がつけば馬に跨り駆け出していた。
自分の名を咎めるように叫んだ友の声が遠ざかっていく。
王太子でありながら、たった一人の女に全て擲とうとするなど、正気ではないな。
そんな風に思いながらも止まることはできない。幸いと言っていいのか、妖精が住まうという森からそう遠い場所にいたわけではない。
逸る気持ちが焦りを誘う。必死に不安を打ち消そうとする彼の目に6色の光が映る。
その光を目印に必死で辿り着いた先で鏡が鐘の形を取るのが見えた。
「やめろ、フィーネ……!!」
全部全部、俺がやるから。
もう君は傷つかなくてもいいんだ。
そう言葉にしたいのにそんな時間はない。
壁のようなものができかけていたが、指輪から放たれた赤い光を纏う剣がそれを砕いて、愛しい女に手を伸ばす。
悲しげに、けれどどこか助けを望んでいるように見えるのに、諦めたように微笑んだフィーネ。
ふざけるな、とクラウスはその手を掴んで抱き寄せた。
それと同時にどこか現実味のない空間へと引き込まれる。
杖に魔力を吸われているのか、今にも倒れそうな彼女を抱きとめて、ほうと息を吐いた。
荒い息の彼女の魔力が杖を通して鐘を響かせる。荘厳な音色は魔王を名乗るグノーシアに大きなダメージを与えるらしい。苦しみながら憎々しげにフィーネを見る。
よく見れば、グノーシアの足を闇の呪術が縫いとめていた。そして、呪術による痣を辿る様に雷が奔る。
二人の男の顔を思い出して苦笑した。
もう一人の兄のようにフィーネを心配していたレオナール。
そして、彼女の最愛だった弟のクリストファー。
「なんでここにいるのがお前でないのだろうな」
思わず呟いた言葉。
けれど、弟はもうここにはいない。
目の前の男が殺したのだから。
フィーネの持つ杖を握って、「手を離せ」と言うと、イヤイヤと駄々をこねるように首を横に振った。なるべく優しく微笑んで、彼はそっと泣きそうな彼女の目元に口付ける。驚いたフィーネから一瞬、力が抜けてその杖を奪い取る。
彼女にとっては重さをあまり感じないというそれは、酷く重かった。