二人のために鐘は鳴る
リオン√最終回
豊かな茶色の髪に、美しい緑の瞳。
可憐かつ清楚な面持ちの少女のように見える女性が白いドレスを身に纏う。
あのパーティーの際よりも、デビュタントの時よりもさらに美しく見えて言葉が出ない。
リオンハルトは壊れ物を扱うようにそっと彼女を引き寄せた。優美に口元に弧を描く彼女は今や公爵家の美姫である。こうしてみると面立ちに公爵夫人の面影を感じる。
リオンハルトを見上げる瞳は柔らかく光を湛えているようで、星のようだと思う。
白薔薇の飾りがついた髪飾り。ヴェールにも金糸で薔薇の刺繍がされている。
妻になる女性の姉、ロザリアが用意したというそれは、なるほど彼女によく似合う。
「殿下、式までは触れぬようお願いいたします」
おっとりとした、けれどはっきりと離れろという意味を持つその声にリオンハルトはハッとしたような顔をして手を離した。
「フィン、綺麗よ」
優しく微笑む女性に、今日の主役の一人である花嫁は「ありがとうございます」と柔らかく微笑んだ。
3年の婚約期間を経て、リオンハルトとフィーネは今日結婚をする。
喪が明けるのを待ったのもあるが、その間にフィーネの兄姉たちの結婚式があったことも大きく影響しての年数である。
フィーネも穏やかに……過ごしたかったのだが、王子妃教育をしっかりと受け、外交に駆り出され、そこそこに忙しい時間を過ごしていた。かつて悲しみのあまりに修道院に入ろうと考えていたためか、考える時間を与えまいというようなスケジュールを組まれた。
見た目が成長したというだけで口さがない貴族令嬢が黙ったあたり、現金なものだなぁとフィーネは少しげんなりもしたが、時を重ねるごとにリオンハルトの一途さに絆されて頑張った。
「わたくしは、あなたの隣に立てる淑女になれたでしょうか?」
そう言ってブーケを抱えるフィーネに、リオンハルトは「初めから、あなた以上の女性なんていませんよ」と言う。
教会で式を挙げ、参列者に見守られながら二人で歩いていく。
外は美しい蒼が広がっていた。
扉が開いた瞬間に風が花を舞いあげる。
教会の鐘が鳴る。終わりではなく、二人の始まりの音が響いた。
二人の門出を祝うようなそれにフィーネは目を細めた。
「幸せになりましょう」
「はい」
はにかむように笑ったフィーネの頬にリオンハルトが口付けると、歓声が上がった。
次ページ(明日更新)からクラウス√です。