その手を取って未来へと
何も返せないままでいると、突如後頭部に衝撃が。
よろけたところをリオン様が受け止めてくださった。何!?と思いながら周囲を見回せば腕を組んで不服そうなセシルがいた。ベルがどうどうと宥めている。
「お前な!!クリスはお前を縛りつけるために死んだんじゃねぇぞ!!」
そんなこと言われても困りますわ!
なんというか自分の道徳的な問題もある。弟が死んだから兄とか絶対言われるし、もしかしたら生前からとか言われる可能性もある。
「別に周囲から何か言われたって構わないではありませんか」
リオン様が耳元で囁く。
いや、よくはないでしょうと渋い顔をすると彼は苦笑した。
「黙らせるのは私の仕事です。君の愛を乞うた私の責任です。そういったあらゆる事から私はあなたを守ると決めました」
「リオンハルト殿下……」
手を取る覚悟がないのは私だけなのかしら。
流されてもいいのかと自問自答する。
そして。
泣きそうな顔で必死に手を伸ばすリオン様の姿を思い出す。
「いやです」
「……そうですか」
「もう、守られるだけはいやです」
悲しげに俯いた彼の頬に手を添える。
「どうか、わたくしにもあなたを守らせてくださいませ」
そう告げると、リオン様は目を見開いて、それから嬉しそうに笑って私を抱きしめた。
驚いて、固まっていると「ありがとう」と消え入りそうな声で呟く。
その言葉は私が言わなくてはいけない言葉だ。
忘れたわけではないけれど、気持ちが薄れたわけではないけれど。
これから一緒に進むのならばこの人の隣がいいかな、って思ってしまった。
「大切にします」
そう言ったリオン様は太陽に照らされて、とても眩しく映った。
自分の瞳から溢れた涙の意味を、私はきっと理解する日は来ないだろう。
風がそっと頬を、髪を撫でて過ぎ去っていく。
それから一週間の後、婚約は結ばれた。
婚約のお披露目をする夜会で姿を見せた私に、なぜか多くの令息が声をかけるようになったのだけれど、そういう人たちちょっとどうかしてると思うし、私のお父様の顔を正面から一回見てみるといいんじゃないかな。
「今更何なのだ。あの連中は」
「ふふ、社交界に出れぬようにしっかり根回ししてあげなくてはいけないかしら」
「父上、母上。冷静に」
アルお兄様が頑張って抑えようとしていた。
そしてその隣にはご機嫌なアナスタシア様がいる。お兄様が贈ったドレスやアクセサリーを身につけてご満悦だ。
仲が良さそうで何よりである。