求婚 2
エスコートされながら庭に出る。
ドロシーを始めとする使用人も数人ついているけれど、なんだか今までとは空気感が違うのは何故だろうか。
なんか、最近みんな対応が変わってきて戸惑うことが多い。今まで小さい子に対する扱いだったものが急に年頃の令嬢に対する扱いに変わった…みたいな感じ?
元々年頃の令嬢なんですけどね。
「君の手を引いて庭を歩けるというだけで夢のようです」
そう言って微笑むリオン様の瞳の熱は身体が成長する前と変わることはない。
私のことをただ幼い頃のひとときだけで娶ろうとしていたわけではないことを改めて思い知る。
「あの、リオンハルト殿下……」
握られた手の熱さが緊張を感じさせる。
「生涯をかけて、あなたを守ります。あなたの思いを得るのには時間がかかるかもしれません。傷が癒えるにも相応の時間がかかるでしょう。けれど、私は我が儘なのであなたを手放すという選択はできません。
──フィーネ嬢、どうか私と…結婚してください」
愛を乞うリオン様の髪を風が撫でる。
耳が薄紅に染まっている。
どこが我が儘だというのだろう、と自嘲する。私の方が余程だろう。
ヒロインじゃないからって、勝手に攻略対象や王族との縁はないものと彼らの気持ちを考えもしなかった。
結婚はお父様が全部決めるものと、愛や恋を自分から切り離して考えていた。そんな子が子供扱いされないわけがなかったのだ。
恋をして、それが叶わなかった私は嘆き悲しみながら復讐に身を焦がした。
私はこんなにも我が儘に、感情のままに生きていて、だからこそその手を取ることはできないのではと思ってしまう。
「わたくしは、とても殿下に相応しい人間ではありません」
震えそうになる声。
けれど、手を取る資格なんてもうないことは自分が一番よく知っているはずだ。
「相応しいか、そうでないかは私が決めます」
真っ直ぐと、射抜くような視線が私の彷徨う瞳を逃さないように合わせられる。
「他の誰も目に入ることがないくらい、私には君しか見えないのです。愛しいあなた、私の生涯の光。今は一番でなくとも構いません。どうか私を選んで」
蜂蜜色の瞳に魅入ってしまいそうだ。
たしかにいつかは結婚をしなくてはいけない。修道院に行くのは許可が降りなかったし、お兄様にご迷惑をおかけし続けることはできない。
けれど、許されないのではないかしら。だって好きになった方のお兄様なのだもの。