人が恋に落ちる瞬間を見てしまいました
誘拐とかされて気がついたら夏が終わり、秋になっていた。
手紙をくれるユウいわく、和国は紅葉が美しいらしい。えー見たい見たいー!……バベルに家から出ないでと懇願された。なぜ……なぜ……。
誘拐されてからやたらとみんな過保護である。リリィお姉様がそうなっていないのが逆にありがたい。庭の探索くらいさせて、頼むから。
「フィンがお外に出ると、また連れ去られてしまうのではないかと不安なのよ」
そう、悲しそうに言うお姉様。あれは護衛に雇った人にヤバい人が混じってたからで、実家に居てそういうことが起きることはそうないと思うのだけれど。
……まぁ、小さいので心配はされやすいかもしれない。
私はなんというか、周りの子どもたちより少し小柄なのだ。……お母様もスタイルいいし、ローズお姉様もゲーム的に言うとぼんきゅっぼんだったんだけど、私もああいう感じに成長できるのかしら。
帰ってきてお庭探索が許される程度には過保護フィーバーが少し収まった頃、王家より手紙が届いた。
いわく、「剣術を競う大会があるので、おたくの娘さんを癒し手として貸してくれない?」とのこと。
……第二次過保護フィーバーが起こった。
「行かなくても構わないよ」
絶対に内心怒り狂ってるだろうな、という笑顔でお父様はそう言って、お母様はその手紙を魔法で刻んで火をつけた。怖い。
その数日後にアーノルドさんが息子さんを連れてやってきて、疲れた顔で宮中でお父様が「王宮内の癒し手で事足りるものに我が娘を参加させようとはどういうつもりかな?」と各部署で威圧しまくっていたらしいと教えてくれた。
今はデリケートな身の上なのでそっとしておいて欲しい。
そういえば、アーノルドさんはなんか私が誘拐されてた間に王妃様が害されようとしていたのを助けたらしくって、その功績を受けて侯爵になるらしい。他にもなんか理由はあるっぽいんだけど、大人の事情は爵位を継がない女の子には知らされないものです。
「うん、そういうことで息子と公爵家の顔合わせでもしとこっかなって」
「父様、そんな軽い気持ちで……」
頭を抱える銀髪の美少年に親近感を覚えて、背中を撫でた。
分かる。レオお兄様にいつもそんな感じで頭を抱える。レオお兄様の手元見るとたまに不穏なこと書いてたりするから。あれ多分、めちゃくちゃ魔力高くて憎悪に燃えている人間見つけたら今でも魔王作るぞ。妙な確信がある。
「はじめまして。私はクロイツ・クレイといいます」
「わたくしはロザリア・グレイヴですわ。こちらがわたくしたちの末の妹でフィーネです」
お姉様に続いて挨拶の後カーテシーをする。お姉様を見てクロイツさんが頬を染めているのが気になるけれど、私のお姉様はこの世で1、2を争う美少女なので当然だと思ってしまう。私のお姉様は世界一!あれ?このノリ何かで……お父様を褒め称えているときの私だ……。
それにしても、クロイツ・クレイ。
アーノルドさんが伯爵だって聞いてたからノーマークだったけどクロイツの父だったのかぁ。
クロイツはフェアプリの攻略対象者で、そのルートでのライバル令嬢がロザリア・グレイヴ……私のお姉様。
思い合って婚約者となったクロイツとロザリアだけれど、ヒロインが生徒会へ入り、その運営を一緒にしていく上で二人の距離は離れ、逆にヒロインとの距離が縮まっていく。ヒロインとの仲が決定的になってしまうのが、ある時を境にそのほとんどを封印せざるを得なかった彼の魔力が暴走し、それをヒロインが身を挺して封じたところである。
その件で咄嗟に動けなかったロザリアはクロイツを愛する気持ちがヒロインに負けたのだと認識し、自ら身を引いた。
めちゃくちゃ納得いかなかった。
だって今まさに目の前で燃え盛っている火に飛び込めって無茶でしょ。公爵家の御令嬢よ?
だいたい、思い合って婚約したんじゃなかったのかよ、ぶん殴るぞ!
そう思ってしまっても仕方ないと思う。
いや、封印せざるを得なかったほどの魔力がヒロインのおかげで扱えるようになって、魔力が暴走するせいで父以外の家族から遠ざけられたトラウマも解消されて、ヒロインを想うようになっても仕方ないとは思ったの!でも思い合って婚約したって最初言ってたのになんでころっとそっちいっちゃったのって気持ちが大きすぎて集中しづらかった。
現実逃避している間に見つめ合う二人。
なにこれ、私もしかして人が恋に落ちる瞬間を見ちゃったのかな。いやでも前世で納得いかなすぎて号泣したクロイツだぞ。大丈夫?大丈夫なの?