求婚 1
「リオンハルト殿下にお礼の文を」
届けて欲しいの、とドロシーに渡そうとしたらリズベットが「来客でございます」と告げた。
どなたかしら、と思っていると「リオンハルト殿下です」と言われて一瞬意識が遠のいた。
「着替えは…時間がかかり過ぎるわね」
「髪を結って小物を変えるだけでも印象は違うかと」
「任せます」
最近は体調も良いのでまともな格好をしているからおかしくはないけれど、やはり王族と会うのであればそれなりに着飾らなくてはいけないと思う。
…それにしても、今までは「可愛い」を前面に押し出してきていたのに最近は清楚な感じで揃えられている。
成長してそこそこに印象が変わったのもあってか、馬を乗り回すような令嬢にはとても見えない。
「変わっていくのね。何もかも」
私も、周囲も。
グノーシアの襲来で欠けてしまったオルゴールを撫でて部屋を出た。
「お待たせして申し訳ございません。お久しゅうございます、リオンハルト殿下」
応接間で待つリオン様にご挨拶をする。
反応がないので不思議に思っていると、「顔を上げてください」と戸惑うように言われて頭を上げた。
「なんだか、大人っぽくなりましたね」
「ふふ、魔力が減ったおかげで少しだけ身体が成長したらしいのです。なんだか両親がより過保護になってしまってわたくしも不思議に思っているのですけれど」
「その美しさを見れば納得をしてしまうというものです」
薄紅に染まった頬に、そこまで変わったかしらなんて考えたものの、リオン様は幼い頃からどれだけ小さくて子供のようでも恋をしてくださった。
「君は何度、私に恋をさせるつもりなのでしょう」
思わず私に触れようとした手を引っ込めて彼はそう言った。
その瞳に、私はどのように映っているのかしら。
ドアをノックする音が聞こえてライナルトが顔を出す。
「旦那様がお越しです」
そう言って扉が開かれ、お父様が姿を表す。私を見て頬を緩めたお父様はリオン様にご挨拶をしてから椅子を勧めた。
リズベットが用意したお茶とお菓子が配られる。
リオン様はカップに手をかけて喉を潤すように一口呑んで机上に戻す。
「この度は会っていただきありがとうございます。今日は…フィーネ嬢への婚約の申し込みに参りました」
魔王の脅威がなくなり、政情も大分落ち着いてきた。リオン様にはもっと良い縁談が来ているだろうに、と戸惑っているとお父様が彼に思いもよらぬことを告げた。
「それは、娘の判断に任せます」
お父様が決めてくれるものだと思っていたのですけど!?
一応淑女教育受けているので顔には出ていないはずだけれど、予想外の言葉に混乱した。
たしかに、貴族の娘としてはいずれ嫁いで行かなくてはならない。
どう答えるべきなのかしら。
何が正解なのかしら。
自分にそう問うていると、庭ででも話しておいでと追い出された。