あの日の光に手を伸ばす 2
暗くなっていく視界と虚になっていく自我が少しずつ戻ってくる。まだ身体に力は入らないけれど、誰かが支えてくれているようだ。
あれほど軽かったはずの杖が今はどこか重い。私の手に温かいものが重なっているのに気づいてゆっくりと顔を上げた。
金色の髪が目の前で揺れている。厳しい目で前を見据えて私を支えるのは、必死になって手を伸ばしていた彼そのものだった。
「リオンハルト、殿下…!?」
「まったく、無茶ばかりして」
一瞬だけ苦笑して、前を向き直った。
そこには、恨めしそうな表情で私たちを見るグノーシアの姿があった。その身体の表面には黒い痣が浮き出ており、時折、体内から雷を纏わせたレイピアのようなものが飛び出てくる。
「人如きが…!!」
呻くグノーシアだったけれど、頭上の鐘がゴーンと鳴り響く度に身体が分解されていっている。
ここまでの効果を出しているのならば私は死んでいてもおかしくないはずだけれど、と思っているとリオン様の身体がふらりと揺れた。
「リオン様!」
「大丈夫ですよ。少し魔力を使いすぎただけです」
少し?そんな顔色ではない。
まさか、と彼の顔を見ると決まり悪そうな顔をした。
「気づかないで欲しかったものですが」
なんでもなかったように立ち上がって、彼は私を見つめた。
「あともう一息です。そこで見ていて」
柔く微笑んで、彼は私の杖を握り直す。杖の飾りが鐘と反応しあって音を鳴らす。
苦しそうなリオン様の手に自分の手を重ねた。
「もう、見ているだけなんてイヤです」
去っていく背中。
伸ばしても届かない手。
虚空に溶ける声。
もう、これ以上何も失いたくないの。
そう願った時、私とリオン様の身体が金色の光に包まれる。
足元に広がる紋様はリオン様の持つ陰陽石を取り込んで周囲に清浄な魔力が満ちていく。
「終わりの鐘が鳴る……」
美しい声が響いて目を瞬かせると、そこにはルミナス様とノクス様がいた。
二人が手を合わせるとグノーシアの足元に大きな魔法陣が広がる。それは受け取った鏡の裏の模様に似ている。それから金色と紫色の光が放たれた。
「誰にも完成させることが出来なかったこの鏡を完成させてくれてありがとう。わたくしの愛し子たちよ」
「おかげでようやくコレを葬ることができる」
やめろと叫ぶグノーシア。
けれど、彼は魔法陣より放たれた光に飲み込まれていく。
やがて、それは消えて周囲の情景が戻る。
光の妖精王、その祠がある泉。
それに安心したからか急激に意識が遠のいていった。
「フィーネ!」
焦るようなリオン様の声を最後に私は意識を失った。