あの日の光に手を伸ばす 1
リオンハルト√開始
カリオンが導くのに従って馬を走らせる。
リオンハルトはどこか焦るような自身の妖精の姿を見失わないように必死になって追いかけた。
光の妖精王が火の妖精王と同じく、土地が黒い魔力に侵されたことによって弱っているのを知った光の妖精たちはその周囲を結界によって塞ぎ、これ以上彼女が傷付かぬようにと陰陽石で周囲を浄化してもなおそれは無くならなかった。
秘宝の封印を解いた。
人間が解いた。
自業自得。
お前らのせいでルミナス様傷ついた。
そう人間を拒む彼らを責めることはできない。全てパーシヴァルのせいであるからだ。
公爵家から火が上がるのを見て、教会の連中を振り切って馬に乗ると、道中でグレイヴ公爵家の執事に出会った。妖精王の祠に向かっていると聞いたリオンハルトたちは必死に。必死に駆けた。
「間に合え…ッ!!」
遠くに6色の光が舞うのが見える。
該当する魔道具の存在がリオンハルトの脳裏をよぎる。ここにあるはずがない、と思いながらも、もしそうであればと血の気が引いた。
あの「鏡」だ。
確かにグノーシアという名前の魔に対して有用であると思われたその魔道具はどこをどうしたって起動に莫大な魔力を消費することが彼女から預かったあとに判明した。通常の魔法使いが手に入れたとしても、命ごと魔力を吸われて終わるくらいにその消費量は多い。
妖精の愛で子と呼ばれる数名がいれば扱えるかと相談していたようなものだ。
以前のフィーネであれば問題なく扱えたかもしれないそれは、今の彼女が扱うには彼女自身の命をかけてのものとなる。
追いついた彼の目に見えたのは光の妖精の結界の内側から「お嬢様!!逃げてください!!」と焦ったように光の壁を叩くレイと鏡が大きな鐘へと変わった瞬間だった。
「やめろ、フィーネ……!!」
リオンハルトにしては乱暴な言葉遣いで、彼は必死に光の中を進む。
一瞬、振り返ったフィーネが少し寂しげに微笑んだのが見えた。
「待って!!」
必死に手を伸ばす。
幼い頃に与えられた光。
フィーネがいたからこその人生。
たくさん失ったものがある中で唯一ただ幸せを願ったもの。
壁のようなものに当たって彼は盾を振りかぶる。
「フィーネ!!」
無理矢理押し入った空間で、リオンハルトは大切なものを抱きしめた。
崩れ落ちた身体を抱きしめて彼女が持つ杖を握ると、自分の魔力が勢いよく吸われて行くのがよくわかる。
「カリオン」
「仕方がありませんね、リオンは」
苦笑してカリオンは彼に魔法をかける。
ベルが祈るようにフィーネに魔法をかけるのと同じように。
弟の仇である男の呻く声は鐘の音にかき消されていく。
この鐘の音が、おそらくはフィーネの魔力を吸った魔道具の最終形態なのだろう。
グノーシアの足を闇の呪術が縫いとめる。
その痣を辿る様に雷が奔る。
鐘の音が響く毎に痛みが増すのか恨めしそうな目をこちらに向けてくる男に、愛しい女の身体を抱きしめた青年は、彼女の杖を持って向き直った。