終幕の鐘は鳴る 4
どうしてこんなに、私には力がないのかしら!
私を抱えてレイが走る。
魔物が出てドロシーはそちらへ向かっていった。自分よりもレイの方が強いから、私を守るためには彼がいた方がいいと言って。
やめて。
やめて。
泣き叫びたい時はいつだってそれを許してはもらえない。バベルだって、私を守るためにあんな怖いやつに立ち向かった。
そういうの、やめてほしい。大切だって言うんだったら何で命をかけちゃうの?
「お嬢様、光の妖精王様に匿っていただきましょう。領域というものに入ってしまえば何人も触れられないとアルヴィン様より聞いております」
「レイは、どうするの」
今私を預けて去ったとして、彼は追うのを辞めるだろうか?
…居場所を吐かせるために、レイに何かするに決まっている。尋ねた声が震えて、それがわかったのかレイは諭すように「お嬢様」と呼んだ。
「いいですか。我々はこういった時のために育てられているのです。気にすることはありません」
穏やかにそう話す彼。
こういうところが、この世界の価値観のついていけないところなんだよなぁ。
それでも、本当は傷ついてほしくないの。
大切にしたいのに。
そう思いながら手のひらをグッと握り込むと、違和感を感じてそれを開く。
「ここにあるはずのないもの」が現れて目を見開いた。
「どうかしましたか」
「いいえ」
もしかしたら、という考えが頭を過ぎる。
確かに可能だ、この鞄の中身が有れば。けれどそれでも「そのあと」を考えれば……。
ああ、確かにそう。
空に炎が上がるのが見える。どうか、私の妖精石が彼を守ってくれますように。
森の奥にある泉にたどり着くと、結界が張り巡らされていた。そっと手を出すとバチと弾かれる。
溜息を吐いて、それで協力してくださったのねと納得もした。
「レイ」
「申し訳ございません。仕方ない、王城に……」
「ここでいいわ」
それを私に求めているのだろう。
黒い魔力が周囲を覆う。咲いた花々がそれに反応するように枯れていった。
バベル、無事だといいんだけれど。
「死に場所はここでいいのか?フィーネ」
艶やかに、嘲るような声が響く。
剣を握るレイを結界をこじ開けた「中」に放り込んだ。
約束は破ってしまうけれど。
これはきっとみんなの想いを無駄にしてしまうのかもしれないけれど。
しっかりと地面に足をつけて、目の前の男と対峙する。
怖いけれど、身体は震えるけれど。
これが私の役目なのであれば。
妖精王たちは善意の協力なので、今回のは認識の齟齬による食い違いと偶然で結界に弾かれていたりする。
フィーネも追い込まれているせいで視野がいつもよりもっと狭くなってたりもする。