終幕の鐘は鳴る 2
普通に仇に「はい!私を食べて!」とかいうアホはいない。少なくとも私にはそんな性癖はないので「死ね」って気分だ。
思い切り雷を落としてやると、それに追撃する様に火がグノーシアを包む。
「お嬢様、下がって」
バベルの声が近くなった。
煙に向こうから放たれた黒い炎を打ち消すようにバベルが魔法を放つ。しばらくの間、拮抗していたそれはいきなりバベルの炎を喰らうようにして迫ってきた。それをありったけの力で防ぐと余裕の表情で立つグノーシアがいた。
その能力が今まで見た何もかもと比べて桁違いだといえる。私が守られて生きてきたからっていうのはあると思うけれど。
「甘噛み程度の魔法で調子に乗るとは中々愛い人間よな」
一歩、一歩近づいてくるそれから私を逃そうとする二人が私の前に立とうとするのをやめてほしくてその腕を取ると、愉しそうな表情のグノーシアが剣を取って向かってくる。バベルはそっと首飾りに触れてからそれを防いだ。バベルの剣を持つ手からは金の光が舞う。
「ドロシー!早くしろ!!」
その声に弾かれるように彼女は私を抱えて走り出した。
彼の名を呼ぼうとして、辞めた。あなたも逃げてなんて聞いてくれる男でないことは知っている。何年もずっと一緒にいたのだから。
「生きて追いつきなさい!」
「無論です!お嬢様は…手がかかりますから、ねッ!!」
珍しく不敵に笑ってみせたバベルは、グノーシアの剣を受け止め、弾く。
「ふん。その祝福のおかげで拮抗しておきながら生意気な口を聞くものだ」
「何とでも言えばいい。俺はあの方だけの戦士だ。他の評価など俺の人生にはさして影響はない」
私が必死に走るよりも、ドロシーに抱えられているままの方が早かった。
途中でレイが合流し、ライナルトはお父様やお兄様たちへの伝令のために離れていった。
バベルが強いのは知っているけれど。
レオお兄様製の鞄はなんとかドロシーに担がれる前に掴んで来れたので、これがあるとないとではだいぶ安心感が違う。
なぜなら、この中には妖精石がたくさん入っているからだ。それも……扱いが容易な「自分の魔力」。
バベルと合流するまで私だって死ぬわけにはいかないと、そのショルダーストラップを握りしめた。