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報復は炎のように 5




なぜこんなことになったの、とエメルダは痛む身体を抱えながら呟いた。



私は恋をしただけ。

欲しいものを欲しいと言っただけなのに。

なんでみんな邪魔をするの?



事ここに至っても、彼女は反省なんて微塵もせずに我が身の不幸を嘆いていた。

その愚かさがグノーシアにつけいられるきっかけとなったのだから、どうなったとしても彼女の自業自得だろう。


可憐だと言われた声は煙を吸ったからかガラガラになっている。容貌も焼かれたせいで酷い火傷となっている。

ガウェインが「生きてさえいれば裁けるだろう?」と死につながる部分以外は治癒を許さなかった。その瞳は恐ろしいほどに冷たく色を放つ。



「最低で絞首刑、頑張って火刑かな」



もう一回焼くのなら、自分に任せて欲しい。

彼女は歌うようにそう言ったガウェインを恐ろしいものを見るような目で見つめた。





そして、王都では赤い薔薇のような髪と紫がかった赤い瞳を持つ少女が、アリステア子爵家で知らせを受け取っていた。

心配そうな顔で少女を見るのはアリエッタ・アリステア。リカルドの婚約者である。茶色い真っ直ぐな髪をきっちりとまとめている。明るい茶色の目は少し垂れ目で眼鏡がよく似合う大人しそうな少女だ。



「ルヴィア様」

「大丈夫ですわ、アリエッタ様」



硬い笑顔を見せるルヴィア・グリンディアの背を優しく撫でると、彼女はほろほろと涙を流し始めた。


ルヴィアは目立たぬように、目立たぬようにと言われて生きてきた。




エメルダに目をつけられてはいけないわ。

お祖母様に見つかってはいけないわ。




母親は必死にルヴィアを隠して育てた。

それはエメルダが他人に対してどう振舞ってきたかを見ているから納得もしたし、祖母がエメルダの生写しだったということもありきっと間違ってはいなかったのだろう。

けれど、一度でもいいから家族団欒というものをしてみたかった、とルヴィアは昔は考えていた。


エメルダの問題を解決しようと両親は必死に言い聞かせたし、躾もした。

けれど、それはどれも彼女には響く事なく、彼女は変わることなどなかった。ルヴィアを信頼できる侍女に任せて、必死にエメルダに関わっても口では殊勝なことを言うけれど、数日もしないうちに元に戻る。

両親…特に母親は疲れ切っていた。


ルヴィアが灯りのついた部屋を通りかかった時、母はよく泣いていた。


エメルダが学院に行っている間が一番ルヴィアたち家族の心が休まる時だった。

ルヴィアが幸せを感じていた最高の1年間だっただろう。




ルヴィアが入学した後、姉は更に苛烈さを増して温厚で引きこもりがちだという公爵家の令嬢に絡んでいるのを見て血の気が失せた。見たままを両親に報告すると、彼らはついに姉を修道院に入れることを決めた。


なぜ、悪虐を為す姉ばかりがあのように楽しそうに生きているのか。


ルヴィアは自問自答を繰り返してきた。

修道院で何かに保護された姉は悪魔のような男を差し向け、侯爵領を蹂躙した。



ルヴィアが生きているのは彼女の両親が「貴方だけでも」と逃してくれたからだ。


彼女と一緒に育ったメイドが「お嬢様だけは」とルヴィアの髪を真似た鬘を被って囮になってくれたからだ。


婚約を予定していた親戚の青年が「振り返るな!」と彼女だけを馬に乗せてその尻を叩いたからだ。


王都に命からがらたどり着いたルヴィアが路地裏に引き摺り込まれそうになった時に、リカルドとアリエッタが助けてくれたからだ。



いろんな人に助けられてルヴィアは、……ルヴィア「だけ」は生き残った。



「エメルダにはどうか、厳しい沙汰を」



震える声は悲しみ以上に怒りを内包している。

悲しくて哀しくて。

殺したいくらい忌々しい。



ルヴィアは優しい少女だった。

両親が守り、乳母や家臣に愛されて育った。社交界の赤薔薇とかつて呼ばれたらしい母にそっくりの美しい姿を隠してそれでも穏やかに過ごせればと願って生きてきた。


けれど、そんな彼女もただ一人だけは許せなかった。

少女は、聖人でも怒りを持たぬ人形でもないのだ。

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