報復は炎のように 4
綺麗に焼け落ちた部屋を見ながら「ちょっと火力が足りなかったな」とガウェインは眉を顰めた。
どこがだよ、とヒュバードとリカルドの気持ちが一つになった時、一つ下の階から毒々しい赤黒い薔薇が伸びてくる。
それは、部屋のあった場所までくるとゆっくりと花開いた。
「乱暴な方ね。挨拶もできないなんて、どこの蛮族かしら」
ビリジアングリーンの髪が彼女の動作に対応して揺れる。オーキッドの瞳が苛立たしげに細められた。
紫色のドレスは胸部を主張して、大胆なスリットが入っており太腿が見える。「うっわ、下品」とリカルドは思わず口に出した。娼婦にしか見えなかった。
「気品のかけらもない相手に丁寧に挨拶をするほど、私は落ちぶれていないのでね」
アイスブルーの瞳が不快だ、というように細められた。ヒュバードは「まぁ、そうだよな」と頷いて雷を彼女の頭上に落とした。軽いジャブのつもりである。
慌てて花の中に閉じ籠ったが、その中からか細い悲鳴が聞こえた。だが、全く心を揺さぶられる様子のない三人は「もう一回やる?」とか「いっそ、あそこに閉じ込めるか?」とか「花ごと炭に変えるか」とか物騒な会話をしている。
「そうだな。燃やすか」
「風で煽れば火力も増すんじゃないか?」
「任せてくれ」
リカルドも若干彼らに染まってきているのかアイディアを出し始めている。その間に「か弱い淑女を甚振ろうなんて紳士のやることですの!?」という声が聞こえて彼らは「は?」とでも言いそうな顔をした。
「兄上はお前の夫が殺したのだろう?では、関係者であるお前が殺されてもなんの不思議もあるまい」
「可愛い妹はお前のせいで恋人を失い、復讐心なんていうものを抱えてしまった。絶対に殺す」
「パーシヴァルがお前たちに関わっている以上、悍ましさしかない。早く消えて欲しい」
リカルドがそう言った瞬間、周囲に土壁を作り、そこに炎と雷の混じり合う竜巻のようなそれが放たれた。そして、リカルドが思い出したように陰陽石を取り出してばつが悪そうな顔で魔力を通す。
そしてそれを放り投げると、ヒュバードの起こした風が壁の内側にそれを運んでいく。
「すごい光だな」
感心したようにガウェインが呟くその時、土の壁が壊れる。
火傷で皮膚の爛れた人間が中から這い出してきているのを見て彼は愉しそうに笑った。
彼女だったものからは魔力をかんじられない。
「人間が元の魔物ならば消えると思っていたが」
そしてうっそりと笑って獲物を見つめた。
──人間であるならば、法で裁けるな?
リカルドの名を呼ぶと、彼は溜息を吐いてそれを拘束した。
奇しくも、我に返って陰陽石の存在を思い出したリカルドのせいでエメルダは人に戻ることになり、そしてその怪我はそれこそ彼女が嫌っていた少女の「元の実力」でしか治らないものである。
もし、手に入れた力を磨いて慢心せず、かの魔王を助けたのならばきっと彼女は勝者であっただろう。けれど、彼女は享楽に耽り、碌に力を磨かず全てを周囲の魔物や魔王に投げ出していた。彼女が強請ればそれは叶えられた。
「早く、処刑されねぇかな。流石に風のとかフィーネに申し訳ねぇからこっちで徹底的に痛めつけねぇと」
祠のある場所で土の妖精王ディオスがそう呟いた。
生きているうちの痛みはおそらく、人間が与えてくれるだろうと考えながら少しだけ回復されて馬にくくりつけられたエメルダを見る。
「荷物扱いかよ!」
とりあえずは人の法に照らして裁けばいい。
死んだ後が自分の領分だ。
我ら妖精の矜持を汚した罪は重い。
彼女のせいで傷ついた犬の妖精の頭を撫でると、気持ち良さげに額を擦り付けた。