報復は炎のように 2
エメルダはグノーシアの用意した屋敷でほぼずっと引き篭っていた。
好きなだけ奪い、好きなだけ貶め、好きなだけ壊す。
なんて楽しいのでしょう、と彼女はうっそりと笑う。
ノブレスオブリージュなんて心底どうでも良かった彼女は、今の欲望のまま全てを喰らうような生活を心底楽しんでいた。
周囲の男も自分をちやほやしてくれて、守るべき王妃として傅いてくれる。
人間を指先一つでぷちぷちと殺すたびに彼女は魔性とも言える美しさを放つ。
少しだけ残念なことがあるとすればこのコレクションの中にアルヴィン・グレイヴがいない事であろうか。
彼女はまだあの美しい金髪と青い目の青年に執着を見せていた。
年々美丈夫へと成長していく青年。
幼い頃、一目見た瞬間、「欲しい」という気持ちが脳を支配した。
自分にだけ甘やかに語りかけ、自分の存在に堕落してくれればと何度も願った。
けれど、彼が優しいのは家族に対してだけ。他の存在に対してはあくまでも興味がないと思っていた。
それなのに、あの男は他国なんかの皇女にあっさりと捕まった。
(わたくしの方が美しい)
(わたくしの方が強い)
(わたくしだけがあなたの全てを受け入れられる)
エメルダは本気でそう思っていた。
アルヴィンはそんなエメルダを心の底から嫌悪していたが、それでも彼女は彼を本気で思うのは自分だけだと断言する。
グノーシアに与したのだって、アルヴィンから居場所の悉くを奪えば、エメルダの腕の中へと来てくれるだろうという打算もあった。グノーシア自身は「そんな事をすれば確実に剣をエメルダに向け、どんな手を使っても復讐に走るだろう」と思っていたが、それで壊れたエメルダも美しいと思って黙っていた。それに、実際に行うのであれば彼女自身の能力の研鑽も多少は期待できる。環境で堕落したエメルダの能力は決して高くはなかった。
そんな彼女は、そろそろ暇を持て余していた。
ほとんどの娯楽は思いのままにやり尽くした。食も、遊興も、男も。
そんなおりに外を見ると、青い炎を纏う銀髪の青年がいた。
思い人と同じ色の瞳は冷たく煌めいてなんとも美しい。
「素敵……。ねぇ、わたくしあの方の瞳が欲しいわ」
蕩けるような表情で夢見るように少女は言の葉を紡ぐ。
言葉が聞こえたわけではないけれど、その無邪気な悪意に気づいたようにガウェインはエメルダのいる部屋を見る。
一瞬、交差した視線に彼は愉しげに口元を緩める。そして、魔物を焼き切りながら階数と部屋の位置を数える。
「 み つ け た 」
音に出さずにそう言う。
そんな様子の従兄弟を少し遠くから盗み見たヒュバードはそっと溜息を吐いた。
(やっぱ、あの伯父上の息子だな。この人も)
家で口に出したなら、きっと妹は「ヒューお兄様がそれを言うんですの!?」と言っただろう。