議会は踊る
フィーネが呑気に閉じ込められていた頃、鏡をそもそも誰が保管するかで議会が争っていた。
王家には信用がなく、グレイヴ家に力を持たせることは嫌だと勝手なことを言う。なるほど、人間とは醜い物だ。そう思いながらアルバートは優雅に足を組んだ。
今なら息子が人の娘よりも妖精を選んだ気持ちが分かるかもしれない、と膝に移動したテディを撫でると、「くま?」と不思議そうに見上げてくる。
(そもそも、命がけで旅をし、その身の8割の魔力を注いで完成させたのは僕の姪なのだけれどねぇ?)
安全な場所で安穏と待っていた奴らに口を出す権利があると思っているのか、とアルバートは内心で思いながら口元に笑みを作る。形だけのそれは仮面も合間ってか不気味さすら感じられる。
そもそも、ギルバードを差し置いてそんなことを話すのは連中には正面から意見を言う勇気すらないからだ。
「しかし、これを作り上げたのはかのグレイヴ家の御令嬢だ。それを取り上げたとなると公爵家より不興を買う」
「そんなもの、手に入れてさえしまえばどうということはない」
実際はあの鏡を使うのであればここにいる人間が命を捨てる気で魔力を振り絞ったとして、まだ足りぬ。
にも関わらず彼らはそうやって争う。
常ならば面倒なそれに首を突っ込むことなんてしないのだが、これを御せない場合になくなる命の数を思えばアルバートも流石に彼らを叩き潰す以外の選択肢を持たなかった。
(さて、どう料理してやろうか、ねぇ?)
静かに唇を舐めたアルバートをガウェインだけが憂鬱そうな顔で見ていた。
というよりも、普段は大人しく研究や装飾品にしか興味を持たなかった父親が猛毒を持った男だと気が付かないその場の人間たちに少し同情すらしていた。
「おいおい、死んだなコイツ」という心情である。
アルバートに合図されてそっと席を外す。
中ではこれから悲鳴が聞こえることになるだろうけれどガウェインにはあまり関係がない。若干同情はするが、日和見主義の彼らのせいで受けてきた被害を考えると助ける気にはならない。
「さて、兄上の後始末をつけるとしようか」
普段は真面目で温厚なガウェインではあるが、彼もまた怒りを持たないわけではない。兄が死んだのはレオナール自身の意向である。確かにそうだ。だが、殺されて許せるかどうか、ということはまた別の問題だ。
グノーシアなる魔王とやらに手を出したとして、彼には勝ち目はないがもう一匹。駆除しておくべき存在の事を彼らは知っている。
艶やかに毒を撒き散らす害虫。
美しく見えるだけの光に喰いつく蛾。
腰に佩いた剣を撫でていると赤いトカゲが手首を走る。
「ガウェイン、来たか」
アイスブルーの瞳がガウェインを射抜く。
末娘が戻った事で調子が戻ったのか以前よりどことなく顔色が良い叔父に軽く首を垂れる。
「兄上に睨まれるなど、愚かな真似をしているな」
そっと視線をやった先には会議室がある。それに苦笑して「そうですね」と返すのとほぼ同じタイミングで扉が開く。
「二人も来たね」
現れた従兄弟の瞳は凍てつくような冷たさを見せる。そして、それに続く青年もその覚悟を感じる表情を見せていた。
王命だ、と前置きがあった上で三人に陰陽石が渡された。