療養という名の軟禁
お部屋から出してもらえないの予想通りとはいえすごいなぁ。扉とか自力では開かないようにガッチガチに封印してある。外からしか開かない仕組みらしい。
お父様の本気が知れるというものだ。
「お嬢様。感心してないでベッドにお戻りください。顔色がまだ悪い」
バベルに促されるものの、あんまり寝ていても身体に悪いので苦笑する。
あの後、王宮に行ってお父様が迎えに来るまでの間にお部屋で鏡を完成させた途端ばたんと倒れてしまった私は医務室でお父様と再会した。
なんか髪の色艶が落ちてたし、お肌ボロボロだし頬は痩けていて「心配をかけて申し訳ございませんわ。お父様。お身体は大丈夫ですの?」と思わず聞いてしまった。
「私は大丈夫だよ。それよりも……なぜもっと早く連れて帰って来れなかった」
後ろを睨むお父様の頭に伯父様がチョップしていた。
「フィンの命と国の両方を守るために決まっているだろう」
呆れたように言った伯父様は、私の状態を見てから頷いた。
曰く、魔力が8割方吸われたおかげで身体への影響はもうほとんどないだろう、とのことだった。お父様が大喜びしていた。
ちなみにだけれど、それでも魔力量はそれなりだ。まぁ、戦いに駆り出されたりのレベルではなくなってしまったようだけれど。
「ただごっそり魔力が減ってしまったからそれに慣れるまではあまり体調が良くないかもしれない」
その程度で済んでよかったーと思うのと同時に、私の中の想定では9〜9.5割くらい持っていってもらえるはずだった。
レオお兄様の「20歳までは増えるから手段で分かっていることは遺していくね」という感じの文面が脳裏を過ぎる。これ、増えるのを抑えないとまずいのかしら。
「お父様、お願いがありますの」
「ものによるよ」
「わたくし、しばらくあまり上手に魔法が使えないと思いますの。……守ってくださいますか?」
「無論だとも。大人しく家にいてくれるかい?」
恐ろしいことに心配はめちゃくちゃされたけど怒られなかった。逆に怖い。
そう思っていたらゴリゴリに盛った警備の中で生活することになっていた。
「あまり寝ているのも辛いのだもの。そうだ。本かお裁縫道具はないかしら?」
バベルにそう尋ねると溜息を吐いて「ございますよ」とカーテンをめくった。そのカーテンって今までなかったよねと思っていたら後ろから本がぎっしり詰まった棚と色とりどりの布、新しいちょっと豪華なお裁縫道具が現れた。いくらかけたのかしら、と少しだけ引いた。
「お望みのものを、お望みなだけご用意致しましょう」
「お父様、やりすぎでは?」
「これだけすれば出ていかないだろう、と仰せでした。それに、元々お嬢様はお外を恐れて引き篭もりがちでしたので他の御令嬢より質素に暮らしておられました。宝石や新しいドレスなどもねだる事が少なくヤキモキしておいででしたので、好きに物を買い与える機会が訪れたせいで少し箍が外れたのではないかと」
社交を恐れて引きこもりで勉強してたからってこれはどういう顔をしていいのかわっかんないぞ。あと、貴金属と豪奢なドレスは持ってる方が胃が痛くなったので……変なところ庶民根性が抜けない。
「ハーブティーやお菓子もご用意できますよ」
「お菓子はご飯が食べれなくなりそうだからいいわ」
動かないとお腹空かないしなぁ。
というか、奥の手を用意してくれてありがとう!あとは任せて!って感じでこの生活になってるんだけれど、外って一体どうなってんだろうか。
「あら、よく見ると窓も嵌め殺しなのね。お部屋の中にプランターとか置けないかしら」
「一輪挿しを用意しますのでそちらで我慢してください」
そう言って用意してくれたハーブティーからはラベンダーの香りがした。
そういえば、レオお兄様のお気に入りだったかしら、と少しだけ思いを馳せて口に含んだ。
逃げ出すから心配して手と口と金を出した結果軟禁になってしまった。
フィーネは特に気にしてないけどたまに「お散歩したいわねぇ」と言ってリズベットとドロシーとバベルに「顔色戻ってから言ってください」と言われる。