揃ったピース
クラウス殿下曰く、黒い魔力を持つ魔物のせいで土地が穢れてしまい、王都にいる光と火の妖精王の力が弱まってしまったらしい。
なんとか元に戻りつつあるのはリオンハルト殿下やミーシャお義姉様の作った陰陽石と魔道具のおかげだとか。
いや、バベルさんジト目で見ないで欲しいです。私だって頑張ってるんだからなぁ!?
え。お父様の頬が痩けて目が血走ってる?本当?
ごめんなさい。
「相変わらず、君はギルバードが大好きだな」
「自慢のお父様!ですわ!!」
「はは……それでユート殿下はなぜこちらへ」
「魔王を殺すためだ」
サクッとそう言ったユウが何かを言う前に耳を塞がれた。伯父様だった。ええい、なぜ私ばっかり!!
「あとは、フィーネが泣いていた。それ以外に何かあるのか」
「……なるほど。互いに諦めが悪いな」
耳から手を離されて、伯父様をポカポカ叩けば、「ははははは!姪とのじゃれあいも楽しいものだねっ」と笑っていた。腹の立つ伯父様である。
「可愛いけれど私だけが堪能してはそろそろギルに怒られてしまうかな」
「怒られちゃえ!!ですわ!!」
「あはは、よーしよし。頭を撫でてやろうね!」
「結構ですわ!ちょ……ああぐちゃぐちゃになってしまったではありませんの!!」
「アルバート様、お嬢様。殿下方の前ですよ」
バベルの言葉にハッと我に返って、手櫛で髪を直して微笑みを作ると、「姫さん、今更おせーよ……」というランスロットの声が聞こえた。
わかって!おりますわ!!そんなこと!!
「大丈夫だ。そんなお前も愛らしい」
そう言って柔らかく微笑みながら背後から来る蜘蛛の魔物を叩き斬るユウ。そして、それに溜息を吐きながら、後続の魔物をクラウス殿下が焼き消した。
懐から取り出したのは陰陽石だろう。
柔く光が広がって、黒い魔力と魔物を消していく。
「助かったわ!!」
祠から赤い光が出てきてそれが眩く輝いた。
その光が収まると、火の妖精王ペレスト様が現れた。以前お会いした時より少し魔力が減っているように思うけれど、本人はそんなに弱っているように見えない。
「クラウスが場を整え、レティが我を守ってくれたおかげでなんとか立ち直りました。礼を言います」
そして私に向き直って、その指を私に向ける。少しだけ苦々しげな表情を見せた彼女の前に一歩足を踏み出した。
「どうあってもそれを完成させるか」
「はい」
「お前の魔力。そのほとんどをなくすことになるぞ」
その言葉に、クラウス殿下とレティお姉様が目を見開いた。
貴族令嬢の婚活事情的な話をすると、大きな魔力を持つ母体からは大きな魔力を持つ子供が生まれやすいことから、この国やセレスティアでは魔力の量で結婚できるか否かが決まることもある。
それに加えて、私の魔力はたしかに私を蝕んでいるけれど、それに加えて私を外敵から守っている面もある。
「覚悟の上ですわ」
それでも、これ以上私と同じ思いをする人がいなくなるように私は願う。
それに、このままでは私はそう長く生きられないと最近よく思うのだ。だからいっそのことこれを完成させてお父様の庇護下で過ごすのも手だと思った。
「そうか……。まぁ、その魔力量では近々身体が保たず、崩れ落ちていたろう。それもまたお前のためなのかもしれぬな」
物憂げにそう告げて、彼女は鏡に加護をくれた。
これでピースは揃った。