帰還 1
「先程は何を耳打ちされていたんだ?」
ユウに問われて、「大したことはありませんよ」と苦笑した。
これを生かすも殺すもきっと私次第なのだろうし、王都に帰ればきっと私はお部屋で軟禁生活っぽいので多分グノーシアとかいうやつと直接戦うことはないだろう。もしそうであれば、教えていただいたこともあまり意味がないことになる。
本当を言えばこの手でという気持ちもあるけれど。
(さすがに保つ気がしないなぁ)
他でもないクリス様に生きてって言われたのだもの。最優先はそちらだろう。
とりあえずは王都に戻って火の妖精王様にお会いしなければ、と手綱を持つ手少しに力が入った。
数日をかけて王都に戻ると、真っ直ぐに学院近くにできたダンジョンへと向かう。
正直あの大きい蟻と蜂のいるダンジョンなんて二度と踏み入りたくなかったけれど背に腹は変えられない。私だって普通に虫は嫌いなのである。
あの時はクラウス殿下と一緒だった道をみんなで進んでいる。バベルは「お嬢様とドロシーは真ん中に。ユート殿下も内側へ」と言いながら後ろに陣取った。
ランスロットが先頭に立って、その隣を伯父様がニコニコとしながら歩いている。たまに羽音がしたかと思えば伯父様のあたりでぴたっと止まるのだけれど何。
「くまー!」
伯父様の肩の上でテディベアのような妖精が蜂の頭をむしっているのがチラリと見えた。ドン引きしていると、ベルが「血塗れテディベア…」と呟いていた。なんか前世でもそういう感じのキャラクターいた気がする。そしてやっていることの割に非常に可愛い鳴き声で頭を抱えたくなった。小さい時に目撃していたら普通にトラウマ案件である。
「テディは良い子だねぇ。魔物は見つけ次第そうしていいからね」
「くまー!!」
嬉しそうに手を振る…妖精?妖精なの?
ベルにあれが本当に妖精なのか尋ねると妖精だって言われた。
「あれはぬいぐるみのようだが力は熊よりなんだな。アーク、ああいうのは多いのか?」
「少ないに決まってるでしょ」
無口だと思っていたその妖精の男の子は思いっきりユウの頬に飛び蹴りした。唖然としていると、「なんだよ」と不貞腐れた様子で腕を組んだ。
「こんな形をして照れ屋なんだ、アークは」
「いや、お前が意味わかんねぇこと言わない限り黙っときたいだけだよ」
そう言ってユウの持つ鞄の上に腰掛けた。セシルが「コイツ、ユートがちょっと惚けたこと言うたびに拳を振りかぶってたもんな」と思い出したように言った。要するにツッコミ系妖精だったのか。
「今まで見てきた妖精、魔物を魔法で押さえても物理で攻撃してるやつなんていたか!?」
「いや…今目の前にいるじゃないか」
「アレが特殊なんだよ。同じことやれって言われたら流石に家出するからな」
いやまぁ、それはそう。
伯父様の妖精はデストロイ系テディベア。