水の妖精王
「嫌よ!!いーーーーーやーーーーーー!!!アルを連れてきてくれなきゃそんなことやらないんだから!!」
拝啓アルお兄様。
威厳もへったくれもない妖精王様と初めてお会いしました。どうすれば良いでしょうか?
寝転び、全力で手足をバタバタと動かし駄々をこねる妖精王はまんま幼児だった。そりゃあ、帰ってきたアルお兄様の顔が育児疲れしたお父さんみたいな顔になるはずだ。
「アルをつーれーてーきーてぇぇえええ!!!!!」
アルお兄様は理不尽なわがままが嫌いなのに何故いつもそういう方に好かれるのか。人間にとどまらないところが怖い。不憫すぎはしないだろうか。
アルお兄様を思い出していた私に、「正気に戻ってくれ、フィーネ」とユウが苦笑した。
「アルお兄様はただいま王都にてクラウス殿下の補助にあたっておられます。こちらに呼び寄せるのは無理ですし……多分文を送ったところで別の方が来るでしょうね」
「レイかライナルトあたりになりそうだな」
「旦那様が直接いらっしゃる可能性もありますよ」
怖いことを言わないで欲しいとバベルを見たら、ランスロットとエドも一緒に振り返っていた。バベルは澄まし顔である。
「そもそも、今までがサラッと行き過ぎたんじゃねぇか?俺たちは野営でいいとして、姫さんとユート殿下はグレイヴ家に一旦……」
「あ、無理です。リリィお姉様出産からそう日が経っていないのに厄介ごと持ち込んだらむしろわたくしたちの命危ういですわ」
「祝いの品は国に戻ってからで問題ないだろうか」
「リリィ?」
そんな話をしているとお姉様の名前にマリン様が反応した。めっちゃ汚い顔だけれど、妖精王様大丈夫でしょうか。
止まったのでそっと顔を濡れたハンカチで拭いた。水の出どころはエドである。
「リリアナってば帰ってきているのかしら!?」
「はい。リリアナお嬢…シュヴァルツ公爵夫人は現在生家であるこのグレイヴ公爵家に戻っておられます。ただ産後そう経ってはおりませんので……
「あら!あらあらあら!!では祝福を与えに行くべきね!!」
聞いておられませんね」
バベル、バベル。これで何あったら私たちみんなめっちゃ怒ったジュードお義兄様と死ぬ気の鬼ごっこなのですけど。
「リリアナってば、アタシが祝福してあげるって言ったのにそれはいらないけどお友達ならいいわって言ってきたのよ!」
ずびずびと鼻を鳴らしているせいで胸を張っているのが台無しである。ついでに可愛い顔も台無しである。
「さすがに子どもへ加護を与えるのは断るはずないわっ!!」
そう言ってポニーのような妖精に乗ったかと思うと、嬉しそうに走り去っていった。
「あれ、放って置いていいのか?」
ユウが指さしてそう尋ねてきて正気に帰る。これはやばいことになりましたわ!!
「じゅ、ジュードお義兄様からのお怒りフラグですわよ!!リリィお姉様が関わった時のあの方、手がつけられませんの!!」
「グレイヴ家周りそんなんばっかだなァ!?」
悲鳴のように叫ぶランスロットの声に「たしかにそう!!」と思ったけれど、私たちは急いで馬に飛び乗った。
ちなみに、ちょっと遅かったらしく扉の前に立った瞬間「説明はしてくれるのだろうね?」と甥っ子を抱いたジュードお義兄様が待ち構えていたし、マリン様は赤ちゃんよりも大きな声で泣いていた。
「マリンあなた、アルにしたことを忘れているのではないでしょうね!!」
「ごべん゛な゛ざい゛い゛い゛ぃぃ」
めっちゃ泣いていた。
リリアナは「そもそもわたくしは風の属性ですわ」って言ってるけどマリンはそれを聞くたびに「水の属性になって」と地面に転がって駄々を捏ねてたりする。