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とある恋とその顛末 3




レオナールはずっと。

ずっと、恋をしている。


常人には理解できないそれを、理解できずとも呆れながら一緒にいてくれた従姉妹はそれだけでレオナールにとって救う価値のある生き物であると思っている。


少なくとも、自分の世界に色をつけてくれた。それを感謝している。



それでも、一番に彼が思うのは「ラベンダー」と彼が名付けた紫色の愛らしい兎だった。

一緒にいる時間が増えていくうちに彼らは言葉を交わせるようになり、普段兎の姿のままだが、人の少女の形をとれるようになった。


ベティ、と呼ばれた彼女もまた、何故か自分に心を寄せる青年に惹かれていった。


けれど、種族の違いは彼らをいつも引き裂こうとする。

美しい容姿と甘い声。才能ある青年はいつだって女性に想いを寄せられた。

強引に縁を結ぼうとする人間もいた。


幸いにも公爵家に連なる家系の出であったが故に彼は自分の意思を貫いてこれたけれど、いつまでもそれが続くわけではない。



終わらせたかった。

何もかもを。



それが、自分に新しい世界を見せてくれた少女の助けになるのならば、そう判断に迷う問題でもない。



上階で上がる火を見ながら、ダミーとはいえ研究資料を燃やされたことに溜息を吐く。本物は嫌がるガウェインにどうしてもと押し付けた。

今頃、弟である彼はようやく自分の遺書を見つける頃だろうか。

そんなことを考えながら杖を握りしめる。


誰に問われることもなかったけれど、彼もまた妖精に愛された青年だった。

数年前の妖精祭の折に妖精王から寵を頂いてもいる。

それもこれも全て、彼の愛するモノのためであるけれど。



「ここに居たか、レオナール・グレイヴ」

「勝手に僕の棲家を燃やさないで欲しいな。魔族っていうのは皆こうも野蛮なのかい?」



手に持った杖を触りながらそう言うと、グノーシアは忌々しげな顔をした。

畏怖するわけでもなく、どこか楽しげにすら見える青年は不快だった。

黒い火を彼に向けると、その杖を向けて「転移(ワープ)」と短く呟く。そしてそれは自分の頭上に落ちてきて、グノーシアは片手でそれを消した。



「闇の魔法なぞ碌に役に立たぬと思っていたが」

「はは。誤算だったかい?何もできない人間を放っておくほど、僕の家族は人でなしじゃないんだよねぇ」



爽やかに笑った彼の足元から触手のようなものが伸びる。それがグノーシアを拘束しようと動き出すと、彼は舌打ちしてそれを黒い炎で焼き切った。

目つきが変わって、下げていた剣を抜くとレオナールは杖を向ける。杖の周囲に紫色の淡い光が螺旋状に集まる。


それは、攻撃のためのものではなく、防御のためのものでもなかった。

そのため、刺し殺そうと向かってくるグノーシアに抵抗できないまま胸を貫かれたが、その唇は弧を描く。



(強大な力を持つってのは大変だねぇ、こういう小細工にこそ気が付かないんだからさ)



鮮やかな紫色がグノーシアの胸に広がる。

レオナールの血が、魔法陣を描いていく。


それは呪詛。

グノーシアを縛る魔法。浄化が上位魔法になっているが故に忘れられがちだが、闇の魔法の真髄とは対象を制限し、果ては命すらも脅かす可能性のある呪詛にある。



「捉えた」



レオナールは苦痛を誤魔化すように不敵に笑いながらそう言った。

けれど、どこかで。

少女の泣く声がした。

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