土の妖精王
「フィン。ファザコンにマザコンにブラコンにシスコンの四重苦の上に甘えたがりの末っ子は流石に家柄が良くてもフォローが難しくってよ?」
四重苦じゃなくてせめてファミリーコンプレックスって言って欲しい。
リリィお姉様が諭すようにそう言った……夢を見た。
「フィン!おい、フィン!?」
身体を揺さぶられて頭が揺れる。気分が悪くなるからやめて欲しいです。
「も……やめっ……きぶんが……」
必死に目を開いた。
美少女的にゲロッといっちゃうのは嫌だったので、そうなる前でよかったです。
「良かった……」
「よくない……」
ギリギリセーフだけど気分は悪いので限りなく良くない。ちょっと恨みがましくユウを見てしまうのは仕方のないことだと思う。
「風でびゅーっとやったので怪我はないと思うんですけど……もう回数切れです。ヒューお兄様とお兄様の妖精さんありがとうございました」
妖精石が消えたので感謝の気持ちを込めて両手を合わせて拝んでおいた。
……あとはバベルが「護身用に念のため持っていてください、お嬢様」と言って差し出してきた火の妖精石と、お姉様とアルお兄様がくれた2つの水の妖精石が手許にある。火の妖精石なんだか執念こもってそう。
ちなみにリオン様もくれようとしたんだけど、ヒューお兄様に「同じ属性の石……必要ですか?」と威圧をかけられていた。すごく落ち込んでいたので私の作ったやつはあげたよ。
「ごめんな、なんかフィンに頼っちゃって。土の魔法って大概農業だとか土壁に使うから……樹が使えればよかったんだけど地下じゃ難しいんだよな」
「そういえば、土の魔法は植物にも関与するのでしたね」
「うん。まぁ、植物に関与できるのは高位の魔法使いだけどな」
土は周りにいなかったので“樹”っていう能力にあまり馴染みがなかった。「俺は使えるんだぞ!」とちょっと自慢気に言ったユウだけど、私だって祝福使えるんだからね!
ちなみにだけれど、高位の魔法使いになってくると基本の6属性の強化版の魔法を使えるのである!
火は炎、水は氷、風は雷、土は樹、光は祝福、闇は浄化って感じ。闇が浄化ってなんでだろうねって話題になったとき、「神話の闇の妖精が浄めを司っているからでは?」って説が出ていたと思う。
アルお兄様は氷が使えるので、アルお兄様の妖精石を使うと私でも氷が出せます!お父様は指パッチンで氷柱落とせるよ。さすが私のお父様!お母様は本気で怒ると周囲からばちばち音がするらしい。アーノルドさんが言ってた。
ベルに魔力を渡して光ってもらい、その光を頼りに地下を歩く。すると、行き止まりに祠のようなものを見つけた。
「何を祀ってるんだ?えーっと、“ヨウ……オウ、ディオス、ココ…ネム…”」
「その流れですと、“妖精王ディオス、此処に眠る。”でしょうか?」
「妖精王の祠がこんなところにあるか……?」
「あるんだな、これが」
振り返ると、マッチョがそこにいた。
顔の整った半裸のマッチョがそこにいた。
「光のとこのか。アイツ、元気だったか?」
「はい。名と王器をいただきました。私はフィーネ・グレイヴと申します、土の妖精王様」
「フィーネ、な。光のが選ぶのは久しぶりだな」
聖母のような人……妖精?だったから久しぶりというのには驚いた。妖精王様にもらったお名前を教えるのは家族と将来の伴侶くらいにしときなさいってルミナス様に言われたので、普段は名乗ってない。言わなきゃ失礼かなって思いましたけど、ルミナス様直々のお言葉だもんね。
話についてこれないのかホケッとしてるユウの袖を2回ほど引っ張ると、正気に戻ったのかディオス様に礼を取った。
「お初にお目にかかります。私は和国、皇家が長子、皇 優斗と申します。お会いできて光栄です!」
「ああ……王族のガキか。ある程度の魔力と妖精との繋がりを此処へ呼ぶトリガーにしていた以上、そいつとは良い関係を築けているみたいだな」
王族?
隣を見ると、ユウが困ったような顔で笑っていた。
あ、ごめん……私もリディア王国の公爵家の末娘だから隠してたの責められないわ……。
「隠していてごめんな。でも立場的に誘拐されるとかマズいだろ?」
「それを言うなら私も相当にマズい立場なので……」
「そういえばグレイヴっつーと、リディア王国の公爵家だな」
ディオス様のその言葉に絶句するユウ。そもそも、なんで私たち誘拐されたのかな。
「おまえらも大変だな。ユートは“側室の子が家を継ぐのに邪魔だから”身内からの手引きで誘拐され、フィーネは“王家に望まれる可能性が高い”から誘拐されたらしいな?」
「こんなことをして私の世界一のお父様が何もしないわけがないのにやらかしちゃったんですね……」
「うちも母上の実家が何するか怖くて仕方ないな……後先考えて行動しないと破滅するのは自分なのにな」
末っ子でなんやかんや溺愛されている自覚がある私と、同母の兄弟がいないので母親に溺愛されている自覚があるらしいユウは遠い目をした。
手遅れ、である。
「そんな顔すんな。特にユート、愛されるっつーのも王の資格の一つだろうよ。俺の愛で子なんだからドーンと構えとけ」
カラカラと笑うディオス様に、ユウは何かと名前を与えられていた。何て名前を与えられたかはわからないの。聞こえない仕様になっているらしいから。
「もうしばらくしたら和国の道を開いてやろう」
あ、あれ!?私はリディア王国の民なのですけど!?
あ、はい。……私は土の愛で子でないから対象ではないのですね……世知辛い……。
「うちから文を届けてやるから、な?」
「ユウだけが頼りです!」
家族に会いたい。