とある恋とその顛末 2
レオナールの予想通り、グノーシアとエメルダは魔法や魔道具の研究の裏にいるレオナールを疎ましく感じていた。
エメルダに関してだけ言えば、フィーネがまだ生きているという事実だけで腹立たしく思う。
「わたくしだったらアルヴィン様が死んだと聞けばそこで命を絶ってもおかしくないのになぜあの子は死なないのかしら?そこまで好いてはいなかったということ?」
まだ執着を持っているあたり、嫌われている自覚が毛ほどもないし、当の本人が聞けば恐らくは「いやお前は殺しても死なんだろう」という感想を漏らしそうではあるが。
しかも、エメルダの妖精がリオンハルトたちによって元に戻り、自ら離れた結果、エメルダの魔力は少し落ちていた。
そもそもが、黒い魔力を持つものを元に戻す、或いは消滅させるものが生まれたことがグノーシアにとっては計算外のことである。
そこで、研究資料ごとその研究の一人者を殺してしまえばこれ以上の被害は出ないと考えた彼はその潜伏先を調べて口角を上げた。魔物を量産していればそのうちに陰陽石を作り出せる人間のうち数人はいなくなるだろうという計算もある。ことエメルダが敵視している少女に至ってはそう長くないだろうとも。
人の出入りが少なく、結界の張られた王都からは少しだけ離れた場所。
人との関わりを面倒だという男に相応しい墓場だ、とグノーシアは地図に背を向けた。
実際、レオナールはそこを墓場にするつもりで研究室を作った。ゲームでの彼の同様にだ。
古には、人と妖精が婚礼を挙げたとされる地域だ。
寂れた神殿を元にした研究室は、一部キャラクタールートのラスボス戦を行う場所であった。
──黒幕が発覚し、彼が殺される場所である。
大人になってから、彼は占いで自分がここで死ぬことが因縁付けられていることを知る。そして、その結果死んだとしてもそれはレオナールにとっては良い結果を生むことを彼は知っていた。
「ベティ、僕の愛しい子。もうすぐだよ」
そう、身内すらも聞いたことのない愛おしげな声で彼はそう告げる。
手を前に出した先に魔力が集まって、短い杖が現れる。先についた紫色の石が美しく輝いた。
「レオ、やめて」
悲しげに響く少女のような声が彼を制止する。けれど、レオナールは「僕にとってはそう悪いことではないのだけどねぇ」と眉根を下げた。
それでもその地を離れようとしない彼に、その声は悲しげに名前を呼ぶ。
「まぁ、いいじゃないか。僕は大幅には道を踏み外すことなく生きてこられたし、ここで彼に手傷を負わせることができることも知っている」
頭に乗った兎を腕に抱えて、優しく撫でた。
「ごめんね」
少しも謝っているように聞こえない。
だが、その声の響きは今まで聞いたどんな時の声よりも穏やかで、優しく。
──愛に満ちていた。