とある恋とその顛末 1
レオナールはフィーネの部屋にあった資料を回収して、彼女がそれを入手できたことを前提とした研究をしていた。
要するに、従姉妹の魔力を減らしたままで維持する方法を考えていた。
一つ目の案はすぐに見つかったが、確定でないのでどうにも言い難い。
女性が妊娠した際、一時的に魔法が使えなくなることが多い。その際の仮説として、腹の中にいる赤子に魔力が集中しているのではというものがある。その過程で赤子に魔力が行くからその間は魔力が増えないのではと考えた。
だが、デリケートな問題だけにそもそも研究自体がやりにくい。そもそも、こんな状況で相手が誰にしろ孕ませればフィーネの精神状態が心配であるし自分は叔父に殺されるであろうことは明確に理解できた。
失敗すれば赤子ごと彼女が死ぬ点も問題である。
それに、妊娠と出産というものは元々が命がけの行為だ。どれだけ対策を取ろうと、どれだけ神に祈ろうと母体と子どもは環境やタイミングによっては死ぬ。こればかりはレオナールの関与できる範囲も超えているので「じゃあ、試してみようか」なんて簡単に言える問題ではない。
それに、魔力というものは上がり幅は人によって違うが20歳までは少しずつ量が増えることが定説となっている。
例えば妊娠期間中に魔力の増加幅がなかったとしても、20歳になるまでの数年間をずっと妊娠出産で費やした際の健康問題や死亡率などを考えれば避けるのが無難だろう。ただでさえ小柄な彼女にはそういった行為は負担が大きい。
もう一つ、可能性があるとすれば。
そっと古い本を手に取ったレオナールはページを開く。
「うん。まぁ、可能性としてはそれよりマシってとこかな」
自分たち暗部も使っている薬物だ。魔力を下げ、魔法による抵抗を無くすための薬。
それに使われている薬草はとある地域にのみ生息するものもあり、レオナールたちでも扱いは難しかった。鮮度の問題もあり、成功率はそう高くない。
けれど、その土地で暮らすのであれば話は別だ。優れた薬師も抱えているそこでであれば非常に確率は上がる。
この際、フィーネに嫁いでもらうのもいいのでは、とレオナールは薬草の文字をなぞる。
フィーネの好きだった少年は亡くなっている。国のため、家のためだと政略的なものにしてしまえばきっと彼女は断らないだろう。
「兄上、また散らかして!ああしかも本の上に食べ物を置くなと何度言えばわかるんですかこのすっとこどっこい!!」
銀髪にアイスブルーの瞳の青年が考え事をしていたレオナールに対してそう叫ぶ。
文官の証である群青の制服に身を包んだ青年はレオナールの弟であるガウェイン・グレイヴ。
「ガイ、うるさいよ」
「兄上が魔法と妖精とフィンのことしか興味がないのは分かっておりますが、もう少ししっかりしてください」
「僕がしっかりしていなくても世界は問題なく回るよ」
そう言って唇を尖らせる兄の頭に一発拳骨を入れてガウェインは溜息を吐いた。
「なぜこちらからの伝達に応じてくださらなかったのです」
「うん。次に狙われるとすれば僕かなって」
「そういうことを聞きたいわけでは」
「そういうことだよ。ちょうどよかった。研究資料まとめておいたから持って帰ってよ」
「兄上」
厳しい目で自分を見る弟に対してレオナールは穏やかに微笑んだ。
「ガイ、お前は怒ると思うけどね。これでやっと、僕の願いは叶うよ」