再会は山の中 2
地面が割れ、血のように赤い毛皮を持つ熊の魔物…ブラッドベアーは足を取られる。それを黒髪の青年が刀で斬る。
周囲の武士風の護衛らしき男たちは荒い息を吐きながら、キラービーと呼ばれる殺人蜂に斬りかかろうとした。
その瞬間、その尾から針が飛び出て咄嗟に結界を作った。
それと同時に周囲を氷が覆う。
「フィーネ!?」
不意に呼ばれた名前に少しだけ気まずさを感じたものの、口元には笑みをつくった。
いや別に会うつもりで来たわけじゃないから許して欲しい。
「お久しぶりです、ユート殿下」
挨拶だけはしておいて、すぐに後ろに引っ込んだ。あまり姿を見せるとバベルたちに怒られるので。
合流してあたりの魔物を大体倒したところで魔道具の杭を打ち込んだ。和国の武士の方々がしきりに恐縮するんだけれど何故?
「それはおそらく、パーシヴァル・リディアが対外的にこちらの魔道具を相当な高値で売りつけていたからでしょう」
エドの言葉に「王子だからって何故リオンばかり何の褒賞もなく魔道具を作り続ければならないのだ」と静かに怒っていたクラウス殿下を思い出した。当のリオン様は「自分より怒っている人間がいるとちょっと冷静になりますねぇ」とか言ってた。
「作った当人には褒賞もなかったと聞いておりますので、周囲からそんなにお金をとっているとは思っておりませんでした」
しかも原因はそのパーシヴァルとかいうクソ野郎である。もうクソ野郎で統一していい?ダメ?
まぁ、国の都合もあるのでその辺お話はできないけれどあの男本当に碌なことをしない。けれど、生かしておくよりは死んでもらった方が周囲への被害が軽く済む。
「そうか。それよりも、元気だったか?」
「散々でしたわ!」
「おい」
「何回か死んでやろうかと思いましたわ!」
「リディア王国、潰した方がいいか?」
「結構ですわ。元凶は勝手に死んだので別にその辺りはもういいんですの。でも、今世間を騒がしている魔王だけは絶対潰さないといけないのでそのために土の妖精王様にお会いしたいのですわ」
おずおずと近況を尋ねようとしてきたユウに素直に答えると、不穏セリフを頂いた。そもそもだけれど、ユウってば騙されてくれないんですよね!勘で済んでいいのかってくらい。なので正直に話しておく方が話が通りやすい。
ランスロットは正直に白状する私に頭を抱えていた。そしてその背をエドが労るように撫でている。
「無理はするなよ。フィーネは頑張り屋さんだからな」
「多少無理してでもやらなくてはいけないことがありますの」
「フィーネ……」
バベルの表情は変わらないけれど心なし黒いものが見える気がする。「無理すんじゃねぇよ」って思ってると思う。私もできればしたくない。平和に平穏にのんびりとおうちタイム過ごしたい。もう不穏はお腹いっぱいなんですよね。
「妖精王様の元へは案内しよう」
「殿下!?」
「代わりに、そちらの国の今の対策の情報や近況を教えてくれ。こちらもこのままではジリ貧だ」
ユウの言葉に護衛の方々は言葉を詰まらせる。そして、その様子が緊迫した状況を表していた。
ちなみにセレスティアはなんとかなっている。元々が魔法至上主義者の国だ。それ故の差別もあるが、魔法の扱いと研究に関していえば我が国よりも上だ。アルス殿下伝に流した魔道具を解析して生産し、秘密裏に設置している。まぁ、難点を言えばあの国は武力というか騎士や兵士の出来はあまりよろしくない。なので防衛には成功しているけれど、それ以上は望めないだろう。皇太子であるアルス殿下はうちの国の騎士並みに剣が扱えるのに不思議である。
逆に和国はそういう差別的なものは一切ない代わりに魔法の形式が違うためか、解析が上手くいかずなかなかうまく防衛できていなかったらしい。代わりに人員を交代しつつ討伐しているようだ。
ちなみに私の恋愛含むあれこれを話すのってどうかしらって思ったので、そこらへんぼかしたら、「それってお前に関係あるとこないよな」と突っ込まれてしまった。ので仕方なく軽く話すことになってしまった。