闇の妖精王 2
静かな水底に安置された美しくもどこか影を感じる鏡に触れる。すると、ぐわっと魔力が持っていかれる感じがして咄嗟に手を離す。
え、何?こっわ!?
でもこれ「持ってきなさい」って言ってましたよね。恐る恐る、もう一度鏡に触れると次は何もなくてホッとする。
そこからゆっくり、上に向かって泳ぎ始める。光の方へ。
なんか水の向こうに赤いものが見えるような気がしながら顔を出すと、火が飛んできて咄嗟に結界を出した。
「何ですの!?」
「お嬢様!!」
ふと見ると、死んだ魚のような目でルミナス様の結界に守られる二人と、それをぶち破ろうとばかりに炎を向けるバベル。威力を上げようとそこまでの道を土の道で舗装するドロシーがいた。普段超仲悪いのに。
「お嬢様、ご無事で…ご無事で何よりです!!今からお嬢様をそんな綺麗かどうかもわからない水に放り込んだ愚か者の首を落としますね!!」
「ドロシーもしかして精神病んでるんですの!?お兄様と同じ属性ですの!?るいともとかいうやつですの!?」
ヤベェやつがいる!とプルプル震えていると、ノクス様に抱き上げられた。泣きかけだったので助かった。
「俺は闇の妖精の長、ノクス。リーディアナの孫娘に渡すものがあって取りに行かせた。貴様等、守りたいと願う人の言うことすら聞かぬとは独善が過ぎるのではないか?」
思いっきりドン引きしながらそう言って、「お前、家に帰らぬ方が気楽に生きられるのではないか?」と言われたけれど、そんなものかしら。
私は家族が大好きだし、平和な時であればお家で本でも読んでいた方が気が休まるので特に不便も感じたことがない。多少過保護だけれど。
「話を聞かなかったのは申し訳ないと思っています。ですが、我々も家出したお嬢様を慮ってのこと。旦那様より、連れ出した人間の生死は問わぬとも仰せつかっております」
「お父様何があったの」
「いや、姫さんと奥方様関わるとあの人大概過激だぞ」
「フィーネ嬢が関わった瞬間、若干人格変わりますし何かやった時の冷酷さ5割り増しは有名ですよ」
いやいや知らないですよ!?
基本的には誘拐とか傷物にしてやろうとかそういう邪な考え持つ人が結構周囲に近づいてくるから過保護気味に守られてるだけなんじゃないの!?
「まぁ……これだけ色々とリーディアナに似ていればねぇ」
ルミナス様は呆れ半分納得半分みたいな顔をしている。お祖母様に似てるから何なの?何かあるの?
「家庭の事情だし諸々口出しするのは辞めるが、リーディアナのような鳥籠に入れられると死ぬタイプでなくて良かったな。フィーネ」
お祖母様ってば結構自由人だったらしいものね。家格的に王家にも嫁げたらしいのだけど、「身体弱くて子供産めるかわからない」ということで候補から外れたみたいなことを昔お祖父様が言っていた。しかも、身体弱かったけどお外走り回るタイプだったし、家の中で閉じこもるの嫌いだったらしい。
「君が探していたものがこれだよ。わかっているとは思うけれど、もう少し下準備は必要だよ」
やったー!
これでレオお兄様曰く自殺行為の所業を一つやめられる。ついでにもう少し私の魔力を取り上げてくれないかなぁ。そうしたら延命とやらになりそうなのに。
「探し物が見つかったのなら、すぐに帰っていただけますね?」
「いいえ。今から下準備が必要なので各所回ってからお家に戻ります」
「お嬢様……」
「お父様周囲は少し大変かもしれませんが、世界が終わるのに比べれば大したことありませんでしょう?」
遊んでるわけじゃないし、後からちゃんとお説教は聞くけど今は言うこと聞いてる時間ないのでサクッと先に進むことにする。
「心配なら、あなたがわたくしを守りなさい」
お嬢様らしくとはどういうものか分からないけれど、そんな我が儘を言うと、バベルは溜息を吐いてそれから仕方なさそうな顔で笑った。
「仕方ないな、あなたって人は」