旅立ち 2
「なんでお前鳥捌けんの」
「おじいちゃんと伯父さんに習った」
ナイフで掻っ捌いて処理をしているとそう聞かれたので答えておいた。ほわほわとした容姿だからか全くそういうイメージないらしいけど思ったよりはサバイバル適性があったらしく、エドにも引かれていた。
「意外と万能ですよね、フィーナさん」
「そもそも、あの子煩悩末娘過保護過激派の人が教えるのを許したのが不思議だ」
おそらくは許してもらってない。
料理の科目大丈夫?伯父さん得意だから教えてあげようね!みたいな感じでガウェインお兄様と一緒に連れて行かれただけだ。むしろ伯父様の底が知れない。怖い。
「みんな叔父上が怖いっていうけど俺は父上が一番怖いよ。未来でも見えているんじゃないかって思う」
ガウェインお兄様は震えながらそうボヤいていたけれど。
実際役に立っているんだから不思議である。
ちなみにガウェインお兄様は「戦いの技術はどこにいっても必要だよ」と文官を希望しているのに言われていたら、それが急遽役に立ってしまって「父上怖いと思った」と言っていた。レオお兄様はあんなに自由なのにガウェインお兄様はいつも死んだ目をしている。そして、不用意にやらかす兄にキレ、上役にキレ、うちのお父様にも直接文句を言う。地味に強いと思う。
「それで、ここからの日程だが」
ランスロットが地図を取り出すのを横目に鍋を回す。少しだけ味見をしてこれで良いかと頷く。調味料が足りない今ならこんなものだろう。公爵家ではないのだし無駄使いもできない。
「シュトレーゼ領に行くまでの道はヒュバード様が粗方綺麗に掃除していってる。その後から夫人が浄化もかけてくれたらしくて魔物はほぼ出ないはずだ。ここは馬でさっさと通り過ぎちまうのがいいだろう。追いつかれても困るらしいしな」
「そもそも、この目的地辺鄙すぎやしないか?」
妖精王がいるとこは大抵辺鄙なのであんまり気にしないで欲しい。でも妖精王のとこに行きまーす!なんて気軽にいえば止められるか正気を疑われるのでまぁ、うん。黙ってよ。
「フィーナの依頼じゃなきゃなかなか足を運ばない場所だよな」
冒険者として生活するにしても、我が家の支援後の彼らはそれなりの能力もあったので王都のダンジョンや付近の洞窟や森で事足りる。稀に商会なんかの護衛任務もあるけれど、そこまで遠くに足を運ぶことは少なかったようだ。
「そんな場所に行くなら、わざわざ抜け出して来なくともよかったのでは?少し我が儘をいう感じで療養とかで馬車も出してもらえたかも」
「父はそんなに甘くないよ」
むしろ、見張りというか護衛の数が増えるし、ヒューお兄様たちにも話を通して家どころか部屋から出ることすら難しくなるだろうなぁ。
お父様もお母様も何故だかやたらと私の心配するので多分何かあるとは思うんだけれど、何にも説明がなかったので考察も何もできない。ただ、今頃ちょっとやった事後悔しそうなくらいブチギレてどうしようもなくなってることしかわからない。
帰ったらおそらく監禁まっしぐらである。
結婚云々はこのままだとおそらく相手がガウェインお兄様あたりになることが察せられる。ガウェインお兄様とくっつけとけば手元に置けるから。その際に意見を聞いてもらえるとは思っていない。
「でも、動かなきゃあとがない」
パチパチと爆ぜる火の粉を見つめながら私はそう口に出した。